ぶっく

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「昔飼ってたワンちゃんに…」


ワンちゃん…わんちゃん…わんわん…。一瞬甲高いおじさんの元気な声が頭に響いてしまった


「大型犬でちょっと素直じゃなくて、でもいつも側にいてくれて…。助けてくれた時にその姿がダブって…だから無意識に今まで諒に興味持っちゃってたみたい」


いや、いやいや、俺への構い方はそんな可愛いものじゃなかったぞ。しかも俺は卯美先輩を極力避けてるし、俺素直だから似てないじゃないか


「思い出したら…会いたくなっちゃった」


やーてーめ、シリアスな雰囲気に持っていかないで。それ彼女の前でやって下さい。俺こういう空気ホントに苦手なんです

喉元まで出ていた反抗的な言葉をぐっと飲み込む
そして髪の毛に触れていた卯美先輩の手に、手をそっと重ねてみた


「ん…?」


察しがいいのか、たまたまか。差し出された手の平に、自身の手を乗せてみる


「い、今だけですから、キス云々よりよっぽど健全なだけでそんな趣味嗜好じゃありません。か…勘違いしないでくださいね!」


あー…っ、消えたい、消えてしまいたい!俺なんでツンデレキャラみたいな変な口調で喋ってしまったんだ。何か変に緊張してしまったから…ああ、もう

そりゃ本当にキスをせがまれたりするより犬の真似してあげる方がよっぽど健全だ。それにここで恩を売っておくもの悪くない

好きだの何だの言われベッドインするより犬扱いされた方が、自分から卯美先輩の所に走って尻尾を振ってしまいたくなる程嬉しい

そう、もう俺を犬と思ってください
そして彼女とのラブラブエンドへと突っ走ってください


「ふふ、本当に諒は優しいね…。ご褒美あげなきゃ」


そう言って鞄から取り出したのはメロンパンである
袋を破り一口大に千切れば俺の目の前に差し出した


「諒、お座り」


…座ってますけど、とは言えず、抱えていた膝を崩せば楽に座ってみる


「ふふ…待ーて」


気のせいか、結構屈辱的だなこれ
卯美先輩が楽しそうにしてるから、やっぱり止めるなんて言い出せないけど

…二分くらい過ぎてもくれないのでこの空気に耐えられなくなり、別に食べたい訳ではないが太ももをぺしぺしと叩き催促をした


「ほら、あーん」


「…わう」


不本意ながら食べさせて貰ったメロンパンをもぐもぐと頬張る
そんなこんなを繰り返し、上機嫌な卯美先輩を眺めながらパンを半分、卯美先輩が残りの半分を食べた頃

この犬に次の指示が出された


「諒、伏せ」


これで合ってるのかは分からないが土下座の様にその場に伏せてみた


「ゴロンは…?」


ご、ゴロン?ひっくり返ればいいのか?
とりあえずごろりとその場にひっくり返ってみる。…この姿を卯美先輩目線から見れる機能が発売された日には俺は首を括れそうだ


「いい子だね…諒」


しかしこんな滑稽な俺の姿を見ても、微笑みはするけど笑い声一つ上げない卯美先輩
…その瞳には俺が犬として写っているのだろうか。進んで乗ってみたものの複雑である

そのままの体制で胸からお腹を何度も撫でられていく。…しかし犬になら喜ばれるのかもしれないが、その手つきが何やら可笑しい
それは気のせいではなく、卯美がシャツのボタンに手をかけ始めた


「何故脱がせる必要が…」


「ワンちゃんは喋れないよ…?」


「…ワンちゃんでも服着てますわん」


うん、そう言う意味での指摘じゃないのは百も承知だ。犬になろうと思ってから俺の頭のネジが次々と抜け落ちてしまってるようだ

仕方ないなぁ、と言った様子で…先輩は裾側からシャツの中に手を入れ肌を撫で始めた


「ちょ、卯美先輩?」


「撫でるだけ…ね…?」


…その瞳にはワンちゃんとして映ってるのかもしれないが、男の肌なんで撫でても楽しくないだろう…。それでも何となく胸周辺をよく撫でられるなーと思いながらも犬を演じ続けていたが…


「…っ、ワンちゃんのそこは撫でる必要がありませんわん」


「偶々だから、ごめんね…?」


うん…うん?
頷きかけてしまうも、何やら金属音に軽く身を起こせば…俺のベルトに手をかけている卯美先輩
流石にもう犬を演じていられず身を起こすも、後ろから抱き締められ下腹部を撫でられる


「ストップ、卯美先輩ストップ!」


「わんって言わないの…?」


問題はそこじゃないわんっ、ああもう慌て過ぎて心の中でわんと言ってしまった
喋り方とは裏腹な手付きに翻弄され、いくら手を退けようとしても撫でられ続けてしまう


「ほ、本当に止めてください…っ」


「気持ち良くなってきちゃった…?」


誰だってそうされたら…ってそうではなく、この流れは絶対不味い。これ以上俺に興味を持たれても困る
…そうか、逆に卯美先輩を萎えさせて興味をなくさせればいいのか
何でこんな簡単な事に今まで気付かなかったんだ。俺は阿呆か

興味を持たれて来た逆の事をすれば、きっと先輩は嫌がるはず
…俺がして来たことって、嫌がる事と現実逃避だよな

後者はともかく、嫌がる事の反対をすれば…そう思い、思い切って卯美先輩の股を後ろ手に撫でてみた
すると俺を弄っていた手も止まり…好感触?
そうっと顔だけ振り返って先輩の顔を見てみれば、珍しく真っ赤に染まっていた


「ふふ、いいね…ぞくっとしちゃった…」


「んんっ、ふ…んぅっ」


振り返った後頭部を掴まれ強引に唇を奪われる。…やめて、首がツってしまう
気のせいか、押してはいけないスイッチでも押してしまったような…雰囲気が巳緒以上に怖い。凄く笑顔なのにちびりそう


「ほら、もっと煽ってよ…諒」


「ふ、う…んっ、ん…っ」


喋らせて、ってか何で喋れるの
長く深いキスに悶え、抵抗も無視され衣服も乱されていく

…もういっそのこと殴ってしまおうかと思ってた時、ガタリと扉が開いたのだ
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