ブック2

□穏やかな日常を目指して
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「いってっ!空哉さんもうちょっと優しく…ったぁ!」


「文句があるなら自分でやれ、…それから負けると分かってんなら潔く逃げろ」


「でも尻尾巻いて逃げたら空哉さんの名が…それに俺のポリシーに反します」


「嫌なら他所に行け」


「そんな…空哉さーん…」


くぅんくぅんとまるで犬の様に鳴くのは…案の定階段で伸びていた俺を慕ってくれてるミヤ
他にも2〜3人転がってたのを引っつかんで空き教室へと投げ込んだ
そして購買で消毒液やらシップやらを買って戻り、適当に手当してやって…ミヤで最後だ
自分でやりゃーいいのに、不器用なのか格好つけてるのかコイツらは怪我してもほったらかしだ
…俺も人の事言えないけど

本当は保健室に行きたいのだが、行った所で保険医に逃げられる
棚などは鍵がかかっていて自分で手当ても出来ず、行くだけ無駄だ


「へへ、でも空哉さんに手当てしてもらえるなら怪我して良かったかも…いっ!?」


「ほら、終わりだ。授業受けるなりサボるなりどこへでも行け」


湿布を貼ってやった…だらしなく緩んだ頬をばしりと叩く
散らばったゴミを掴めばゴミ箱へと捨てた

時刻は1時を大きく過ぎている
今更授業受ける気にもなれず、壁を背に座り込む

…っあぁ…背中いてぇ…ちょっと忘れてた…

痛みで前屈みになる俺の隣に腰掛けたミヤ
…ちらりと目をやれば変わらず頬は緩んだままだ


「空哉さんがサボるなら俺も一緒にサボります!」


「勝手にしろ。…それからいい加減敬語止めろ、気持ち悪い」


「いやー何か癖で」


ミヤはこれでも同い年、後の奴らは年下だ
ミヤ以外は俺に憧れて慕ってきてると言うより、ミヤが憧れてる俺だから慕ってきている、と言うのが正しい

髪も白に近いくらい明るい金髪に見るからに痛々しい程のピアスの数
ジャラジャラとしたシルバーのアクセに、それが似合うすらっとした体格。おまけにイケメン
喧嘩っ早さも見た目もまごうことなき不良
端から見れば完全に俺の方が金魚の糞だ


「空哉は怪我しなかったの?」


「ん…まぁ、平気」


「ひー、あの委員長とやり合って平気とか、流石空哉っ」


素敵だの恰好いいだのきゃぴきゃぴとはしゃぐ様子からして、痣はあたったがミヤもそこまで怪我は負っていないようだ


「でもやっぱり湊を締めよーよ、空哉が狙われるのアイツのせいなんだし」


「いいからほっとけ、関わるな」


俺でさえこんなんなのに手なんか上げてみろ、ミナトを好いてる奴らからフルボッコにされるぞ
…でもあんまりこいつらに手を出されるようなら俺も考えないとな

前屈みで猫背なまま目を閉じる
あー…そう言えばミヤも飯まだなのかも
動いたら腹減ってきたし一緒に買いに行くか…あーでも動きたくねぇ…


「…空哉も湊が好きなの?だから俺らにも手を出させないの?」


「違う、ただ相手が悪い。それに俺は元から喧嘩を勧めてはいない」


何かさっきもこんな台詞聞いたような…
向かってくるから、居場所を奪おうとしてくるから相手をするだけで、無駄な喧嘩がしたい訳でもない

血の気の多いミヤにはその辺りが分からないようで、見てはいないが顔に似合わず頬を膨らませて拗ねていたようだ


「じゃー空哉は誰が好きなの?」


「…いねぇーよ」


…何だこの会話、乙女か中学生か
自分がミヤの様に格好良くないのは、むしろ不細工なのは自覚している
だから別に女を追いかけ回そうなんて気は更々起きてない
男子高でもどこでも…寮があるならそれで良かった
それに、女が駄目だからって男を狙う気にもなってはいない

ミヤが動いたようで物音がしたが、目を閉じたままなのでどこに行くのかまでは分からない
しかし何やら傍で息遣いを感じたので、痛い背を伸ばし目を開けば…間近にミヤの顔が


「空哉…俺さ、空哉の事がーー」


「…っチ、ここもハズレかよ。おいテメーら、湊見なかったか?」


何やら真剣な面持ちで話しをしていたミヤを邪魔するタイミングで、ガラリと扉が開かれた
開いた人物は生徒会長
…これは不味いかもしれない


「このクソは…人が大事な話ししようとしてるのに邪魔しやがって…!」


案の定直様ミヤが動き、喰いかからんとばかりに会長に歩み寄る
…見ての通りミヤは生徒会長が、ついでに風紀も大嫌いである


「あ?何だよお前らか…今からおっぱじめる気でもいたのか?」


「うっせぇなー…何しようが勝手だろ!万年発情してる強姦魔に言われたかねーよ!そんなんだから好きな人に振り向いてもらえねーんだよ!」


「…テメー、もう一回言ってみろ」


「あぁ?何回でも言ってやるよこのふぐっ、んんーっ!?」


分の悪い喧嘩はするなって言ってるだろ

後ろからミヤを抑えて手で口を塞ぎ、そう耳元で呟いた
不満気なミヤを抑えたまま会長に目を向ける


「湊の居場所は知らない」


「それだけで済むと?ちょうどテメーに話があったんだ、返事次第ではそいつの失言は見逃してやる」


「…多分断るけど」


「ならどちらかに相手してもらうだけだ。…ったく湊は見つかんねーし清士(せいじ)はムカつくし…やってらんねぇ」


…何かさっき似たような台詞聞いた気が…今日こんな事ばっかだな

抑えつけていたミヤを離せば、「行け」と言う言葉と同時にぽんと背を押した


「俺はコイツに話がーー」


「ミヤ、後で話し聞くから部屋で待ってろ」


「空哉…!」


「話しをするだけだから、暇なら俺の好物でも用意してろ」


言っても出て行こうとしないミヤを無理矢理押し出せば内側から鍵を閉めた
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