ブック2

□キミの悩み事は何?
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「はるる可愛いーっ。派手さはないけどさ、上品なの着さすと似合うよねー」


「あ、ありがとう。こんな服着れるなんて…嬉しい」


一人だったら着たくても中々手をだせない…メイド服
雪ちゃんのは膝上スカートとニーハイで、ものすごっく可愛くて見てるだけで頬が熱くなってしまう
俺はと言えば、雪ちゃんが着やすいとロングスカートを選んでくれ、おまけに黒タイツ
露出が殆どなく気楽に着れたのだ

後、俺のネットで使ってた名前が”はる”
だから雪ちゃん達に”はるる”って呼ばれている

今日は珍しく、俺にも気合の入ったメイクをされ鏡の中の自分はもはや違う人物に見える程

それでも雪ちゃんに頼めば顔から下の写真を一緒に撮らせてもらった


「はるるも顔出せばいいのにー、結構どっちからもモテるよ?」


「それは雪ちゃんが可愛いからだよ」


「ふふ、否定はしないけどねー。さてさて、はるるにお願いがあります」


「何?お礼に出来る事ならするけど」


「そこは気にしなくていいよ。それ僕の服じゃないし」


選んだのは僕だけど、と続ける雪ちゃんに首を傾げた


「それ、お店の借り物なんだ。でねでね?その格好でビラ配りしない?時給は高いし配り終えれば終了!おまけにいつでも服貸してくれるって」


お店って言うのは雪ちゃんがバイトしてるお店の事だと思う
俺も何度か遊びに行かしてもらい、友達も出来た場所だ


「はるるさえ良ければコスプレ喫茶で働いて欲しいんだけどね、いきなりはきついかなって」


うん、と苦笑いを浮かべながら首を立てに振る
雪ちゃん達の事は好きだけど、お外に行くのも躊躇う俺にはハードルが高すぎる…


「どう?今人いなくて困っててさ、人助けだと思ってお外デビューしない?」


…珍しい雪ちゃんからのお願いだ
何から何まで教えてもらってるのに、未だにろくなお返しは出来てない…
今なら…メイクは濃いし多分場所的にも知り合いには合わないと思う
チラシ配るくらいなら、大丈夫…かな


「うん、分かった。俺でいいならやってみる」


「やったー!流石に僕でも一人でするの心細かったんだよね。もうはるるだーい好きっ」


「ゆ、雪ちゃん…っ」


飛びつかれて何とか抱き留めながら、…こんな可愛い雪ちゃんなら一人でやった方が早く終わるんじゃ、と思うのであった



ーーー


「よろしくお願いしまーす」


「よ、よろしくお願いします」


慣れてる雪ちゃんは積極的に配り枚数を減らして行く中、俺はと言えば…予想が的中


「…減らない」


雪ちゃんにはチラシの内容が内容だけに、受け取って貰える方が珍しいって言ってたけど…


「「男の娘コスプレ喫茶…」」


「え…?」


「そんなのあんの?珍しいじゃん」


ふとチラシの文字を読めば声がハモり、顔を上げれば…いかにもチャラそうなお兄さんだった

髪は眩しいくらいの金髪に左右五つはあるピアス
何個つけてるのか、あちこち飾られているシルバーアクセ
目は垂れ目がちで…その、いかにもチャラい
強烈な印象なので二回言いました


「なになに?キミもそこで働いてんの?」


「い、いえ…お手伝いしてるだけで…」


萎縮してるのもあるけど、この格好でいつもの声を出してはいけない気がして、出来る限り高音で喋ってみたけど…俺気持ち悪い、あんまり喋らないようにしよう

けどそれをこのお兄さんは気にしてないようで、むしろ目を輝かせて顔を近付けてくる
…物珍しいのかな


「えーキミ可愛いじゃんっ、もったいない。俺君になら接客されたいかも」


「…っ、ありがとう…ございます」


近い近い…うぅっ
馴れ馴れしく肩を抱かれ益々笑顔が引きつる

そんな反応が面白いのか、頬を指で突つかれてしまう


「せっかくだから接客してよー、何ならそこらでお茶でもいいけど」


「い、いえでも仕事が…」


ちらりを視線を腕に下げている籠へと落とす
百枚あるチラシを一時間配って二十枚配ったかどうかなレベル…これじゃー約束の三時間後までに配り終えれるか怪しい
だから早く仕事に戻りたいんだけど…


「これが君の分?ちょっと貸して?」


いいと言う前にチラシを全部取られてしまい、側にある楽器屋の近くへ
そこにいたお兄さん達に纏めて渡せば次から次へと隣に回されていく
それに興味を持った女の人達も集まり、あっという間にチラシは人の手に渡っていってしまった
そしてお兄さんは手をひらひらと振りながらこっちへ戻ってくる


「これならいいっしょ?」


…いいのかな。いや、もうどうしようもないんだけどさ


「はるるー調子どう?」


次いで少し離れて配っていた雪ちゃんもこっちに様子を見に来てくれ、俺の籠を覗き見た


「すごっ、もう終わったの?」


「はるるって言うの?俺店わかんないから案内してよ」


「え、何。お兄さんまでたぶらかしたの?やるねー」


「そう言う訳じゃ…」


このこの、と楽しそうに脇腹を突いてくる雪ちゃんにこれまた引きつった笑みしか出来ない…


「いいよね?それとも用とかある?」


「いいですよー。何ならお茶でもしてきて下さーい」


「ゆ、雪ちゃん…っ」


「いいじゃん、お兄さん格好いいしっ。お給料はちゃんと後で渡すから安心して行ってきて?」


肩を掴まれたかと思えばお兄さんに近付けるように後ろから押されてしまう
確かに格好いいかもしれないけど、苦手なタイプだし…嫌ですって、言えたらいいんだけど…


「案内だけなら…」


「ラッキー、じゃー行こっかはるる」


「僕もすぐ終わらせるから、お店で待っててねー」


またも馴れ馴れしく肩を抱かれ、嬉しそうに手を振る雪ちゃんが遠ざかって行くほど、俺の不安は募るばかりだった
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