ブック2

□103号室
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インターフォンを鳴らしピンポーンと音が響く


「すみませーん。新崎です」


とドア越しに声を掛ければ、暫くして相手の応答と共に扉が開かれる

向けられる笑顔は優雅で思わず見入ってしまう
落ち着いてる彼にぴったりな渋めな色の浴衣が爽やかながらも色気を放っていた


「はいこれ、いつもご苦労様」


「いえ、こちらこそありがとうございます」


何も言わずとも渡してくれた茶封筒を中身を確認せずに受け取り、肩に掛けている鞄にしまう
いつもちゃんと、お釣りもないように家賃を入れてくれているからだ

今日が集金の日だとも覚えてくれ、毎月こんな感じで助かっている


「何か困った事はありませんか?」


「んー…是非新崎さんに頼りたい事があるんだけど、家関連じゃないから迷惑かな」


「構いませんよ?お役に立てるなら」


「本当かい?ありがとう、少し上がってくれるかな」


彼は作家であり、俺はそのファンだったりする
それは入居後に知ったから、別にやましい気持ちがあって入居させた訳じゃない

本関連の相談事だったらどうしよう、なんて少し緊張してしまう
失礼します、と挨拶すれば部屋へ上がらせてもらった









「か、彼の男らしく角張った指が後孔を擽り――…」


まだ続けなくてはいけないのかと不安げに彼を見れば、穏やかに微笑みを返される

仕方なく羞恥を堪えれば先へと読み進める


「き…気持ちいいよぉ、もっとか、かき回して…」


…今更になって安易に頷いてしまった事を後悔していた
俺が思った通り、新作の本に関する相談で
主人公のイメージが俺と似てるからと、ちょっと行き詰まってるからその前辺りを朗読してほしいと頼まれたのだ
主人公が自分に似てるなんて、ちょっとわくわくしながら渡して貰った紙に目を通しのだが…


「これって…」


「流行りの物も書くように勧められてね。勿論ペンネームは変えて出版するんだけど」


…いや、問題はそこではなく
彼がいつも書くような話しではなく、むしろ真逆なえろで…
し、しかも男同士…さらっと読んだだけで目眩がしそうだ
文章の構成や言い回しは好きなんだけど…流石に今回は買わないと思う


朗読させられ早5分
変な汗をかきながら次回作に期待して読んでいたのだけど…


「お…おち…を中に入れて…さい…」


「もう少し大きな声で読んでくれるかな」


「お…お…っ、む、無理ですっ。そもそも俺こんな事言いませんよ!」


確かこの主人公は俺に似てるかもしれない
でも俺ははしたない言葉を言ってよがったりなんて…
恥ずかしい余りに叫んでしまったが、この子は俺じゃない
はっと我に返れば紙で顔を隠して「すみません…」と謝る

彼はそんな俺を気にする事なく穏やかだった


「やっぱりそう思うかい?そこで行き詰まっていてね…」


中々紙から顔が上げれず、はぁと相槌をうつ
穏やかな彼が目をギラつかせてこっちを見てるなんて夢にも思わず、さっきの台詞後は書かれていないので紙を返そうと顔を上げた刹那


「ねぇ、試してみていいかな?」


彼の手が俺の肩に掛かり、ぐっと容赦なく押され…視界が反転した
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