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□君の瞳にスターリング
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一体全体、あたしはどうしてしまったのだろうか…。

学校行って、バイト行って、家帰って宿題して寝て起きて学校行って。毎日毎日そんなことの繰り返し。どこにでもいるような女子高生なあたしだが、あたしはこの極々普通のサイクルというものが嫌いだ。なんてったってつまらない。ぶっちゃけただの我が儘だがもうちょーっと日常というものにスパイスが欲しい。そりゃあ、あたしは特別可愛くもなければ美人なわけでもない。平凡だ。勉強も運動も特別出来るわけではないし、これと言った特技なんてない。彼氏がいるわけでもないし、そんなあたしが日常にスパイスだなんて何ほざいてんだって話だと思う。でもさ、願うくらいはいいと思わない?

願うくらい、個人の自由じゃんか。


今日もまた朝が来て、変わらない日常が始まる。でも、何かがおかしい。あたしがおかしいのか、それともあたしの身の回りがおかしいのか。検討なんてつかないけどとにかく何かがおかしいのは確かだ。

朝、いつも遅刻ギリギリの時間に目が覚めて慌てて学校に行くはずが有り得ないぐらいの早起き。おめめぱっちり。あまりにも時間に余裕があったためメイクバッチリ。髪型もバッチリ。学校にも遅刻せず余裕で登校。

休み時間、自販機で飲み物を買いに行ったら当たりが出て無料でもう一本。

大嫌いな数学の小テストでまさかの満点。先生に褒められる。

昼休み、校内1のイケメンと噂される男子生徒に告白される。

放課後、なんでか友人に掃除当番を代わりにやってもらえる。

いつもよりも早くバイト上がり。

帰りにバイトの先輩にアイス奢ってもらう。


………待て待て待て。なんだこれ。


「何、あたしどうしちゃったの?てかあたしより神様どうしちゃったの?なんかあたしにやさしくない?神様があたしにデレたかんじ?ツンデレ狙っちゃいます?」


あまりにも今日という日がラッキーだらけであたしはパニックに陥っていた。あたし明日死ぬの?だから今日こんなラッキーなの?…ヤバい恐くなってきた。

バイト先から自宅までの帰路をあたしは頭を抱えながら歩いた。あ、500円玉見っけ。…なにこのラッキーもうやだ恐い。ホント恐い。すぐ近くにあったカーブミラーで自分の表情を伺えば顔色は真っ青だった。

本格的に恐くなってきたので、あたしは足早に自宅へと向かった。

ガチャリと音をたてて玄関のドアを開け、勢いよく閉める。閉めたと同時に口から大きな溜息がこぼれた。誰だ、日常にスパイスが欲しいなんてほざいたやつ。他でもないあたしだけどさ、突然やってくるとマジ恐いっての。

自分で勝手に願ったくせに悪態を吐きながら靴を脱ぎ捨て、自室へと向かう。家の中は物音一つせず、ガランとしていた。あたしの家は両親が共働きだ。今日はたまたま二人とも出張で帰って来ない。

自室の扉を開けながら、あたしは制服のブラウスの釦を外しにかかった。


「は?」
「え?」


あと一つ釦を外せばこの堅苦しいブラウスを脱げる、というところで突然聴こえてきた声。思わず聞き返してしまったが、あきらかにおかしい。だって、あたしは一人っ子で、両親は出張中で家にはいない。…ということは間違いなくこの家にいるのはあたし以外にはいないはずだ。なのに、あたし以外の声。

恐る恐る顔を上げれば、真っ赤な髪が目に飛び込んできた。あたしの中で真っ赤な髪色の友人などいない。しかし、あたしの大好きな彼は真っ赤な髪をしている。


「えええ!?」
「ちょ、お前、前隠せ前!」


真っ赤な髪の彼は髪の毛と同じぐらい顔を真っ赤にしてあたしを指指した。それに慌ててあたしは胸元を隠して叫ぶ。


「ぎゃあああ!!!見んな馬鹿!」
「勝手に脱いだのお前だろぃ!」
「うるさい馬鹿!」


今日という日がおかしいとは思っていたがまさかここまでおかしいとは。あたしの目の前にいるこの真っ赤な髪の彼。彼はあたしの友人でも幼なじみでも親戚でもない。あたしが一方的に知っている存在。紙面上の人物なのだ。そんな彼が、なぜここに?ああ、とうとうあたしも頭がいかれたのか。それともただの夢なのか。でも、これを夢だと決定づけるのは惜しい気がする。


「あ、れ…やっぱ、ラッキー…?」


だってだって、目の前の彼はあたしの大好きなテニスの王子様の丸井ブン太なんだもん。


「お前誰だよ」
「(知ってるけど)お前がな!!」


こんなラッキー、滅多に無い。もう夢だか現実だかわけわかんないけど、この状況を楽しもうじゃないか。

口元に弧を描き、あたしは彼へと一歩近づいた。



君の瞳にスターリング
(きっとあたしのおめめキラッキラだよ)

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りんごほっぺ様提出作品

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