傍観者の

□我慢
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埃を被るのは、輪子こと戦輪とユリコこと石火矢。高飛車で自分大好き人間でとても優秀だった美しい二人の相棒達。



「四年は二人脱落、か。」




第十八話 我慢




土井先生の使いで用具倉庫に手裏剣を取りにきた俺。ここ何日用具倉庫に入り浸っている気がするのは決して気の性などではないだろう。用具委員会は特に忙しく危険も多い。下級生ばかりなのだから尚更だ。

そういえば朝も潮江先輩と食満先輩が天女を巡って争っている途中壁が破損していたな。用具委員長が物を壊してそのまま放置とは何様のつもりなのだろうか。今日は図書委員会と火薬委員会にも顔を出さないといけないのに。全く困った先輩方だ。

最近回数が異常に増えた溜息を付きながらがらりと倉庫の扉を開ける。

そこに広がるのは真昼だとは思えないほどの暗闇。職業柄夜には慣れているが薄暗い倉庫内はやはりそれ相応の不気味さを持っていて自然と足は早まった。



「手裏剣は確か奥の棚だったな…。」


普段余り行かない奥へと足を進め立ち止まった瞬間だった。かつんと右足に何か固い物が触れたのは。



「これは…。」




鈍い光を放っている平な何かを拾い上げる。埃だらけになった円盤。これは正しく戦輪だった。すぐ横に視線を移せば同じく埃に塗れた石火矢が無造作に置いてある。

そういえば最近奴らが鍛練をしている所を見ない。いや、持っている姿すらもう長い間見ていない気がする。



「輪子と、ユリ子。」



そうか。主である筈の平と田村は落ちたんだな。あんなに愛されていたのに。あんなに鍛練に励んでいたのに。








「四年は二人脱落、か。」






平、田村は天女側。喜八郎は反天女側。あとは斎藤タカ丸がどちら側か、だが。確か前に火薬委員に行った時奴の姿は無かったな。だが真意は不明だ。確かめて見ない事には何とも言えない。
…ただ、あいつはどうもいけ好かない。出来るなら関わりたくないが事態が事態。私情なんて挟んでいるバヤイではない。







「…おっと。長居をしすぎたな。」



きっと土井先生がお困りだ。早く帰らなければ。



俺は手裏剣の入った木箱を持ち外に出た。

古びた扉を撫ですっと目を細めればそこに付くいくつもの傷痕。先輩方が残して行った、歴史ある傷。

忍術学園には歴史がある、力がある、誉がある。それを崩させるなど言語同断。



「もうそろそろ許可を頂きたい所だな。」



ふっと微笑を口元に緩く描きながら取っ手へと手を動かす。

扉の閉まる音がやけに寂しげに辺りに響いた気がした。














「我慢にも限界というものが在るんだよ?」

 

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