明日天気になあれ!

□05 オイルの中に身を沈め
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『えーと、今までの話しをまとめると…今は室町時代と比べると人間も技術もかなり進歩していて全国統一もされているってことだよね?』

「全国統一っていうと誤解が生まれるかな。殿様なんていう支配者はいないし、国民中心の政治が行われているから。あとは快適に、そして平和に暮らせるように法律っていうたくさんの決まり事もあるし…。つまりはあんたが生きていた時代とは時間だけではなくて人も技術も文化も変化したってこと。」

『そっか…。』





ほう、と感嘆のため息をついた不破雷蔵。それと同時にふっと哀愁が漂ったのはきっと昔へと思いを馳せているんだろう。

自分が生き抜いた時代を否定するかのような、変化した人間、進んだ技術、違う思想。

もし私がそれらを突き付けられた時、受け入れられるかどうか問われたら私は首を横に振る。生憎、そこまで柔軟な考えは持っていない。

そして、


そんな悲しげな顔をしないで。昔があるから今がある。昔の世があったからこそ私達は今こうして進歩を遂げた。そう…この時代はあなた達が作り上げたようなものなんだよ。



…こう言ってあげるほどの優しい考えも、持っていないのだ。残念ながら。

というよりも、目の前にいるこの霊に深入りする気がないだけ、という方が正しいのだけれど。





『えっと…どうかした?』




急に黙りこくった私に、顔を覗き込むようにして問い掛けてきた不破雷蔵。

奴の声ではっと戻って来た意識を少し苦々しげに思いながら「…なんでもない。」と答えすぐさま話しを元に戻す。



「例えば、クローゼット…じゃ通じないか…箪笥の上に取り付けられてる物、見える?あれはエアコンっていってね。」

『えあ、こん?』

「そう、エアコン。この四角い機械の丸い部分を押すと…。」



ピピッという電子音と共に流れ出す冷たい風。

不破雷蔵はぴくんと肩を揺らした後、素早い動作で懐へと手を入れた。

が、すぐにその手をゆるゆると下ろした。


「…不破雷蔵?」

『あ、ああ。うん。つい…昔の癖で。苦無を握ろうと思ったんだけど…。うん、そう、そうなんだよね。僕死んでるんだった。うん。ある筈、ないんだった。…ごめんね。』


自分に言い聞かせるように何度も何度も頷く不破雷蔵。

人間が有機物にあるのに対して苦無は無機物。人間が死に、霊となったとしても物である苦無をそのまま持っている事は出来ない。

持っているとしたら抜け殻、つまりは死体。


勿論今奴が身につけている忍装束も無機物なのだけれど…。
霊というのはある一説では思念体ともいうらしい。あの忍装束はきっと奴が死に、霊となった瞬間『当然』という思念から生まれた物なのだろう。思念で作られた、所詮はまがいもの。

まぁそれを言ってしまえば霊も奴の存在も否定する事になるのだけれど。

しかしそれでは何故苦無は思念で作り出せないのだ、という問いに私は答える事は出来ない。分からないから。

ああ、本当に、奴らはいつも私を惑わせる。

何とも未完成な、仮説にも及ばぬその考えを苛立ちとまどろこしさと共に頭の隅へ追いやり、私は握りしめていたリモコンを机へと置いた。



「…エアコンは部屋の温度を調節する機械なの。暑ければ涼しく、寒ければ温かくしてくれる。空調、とも言うんだけど。」

『すごい…。』

「まぁこんな感じでテレビ、掃除機、シャワー、冷蔵庫、車、飛行機とありとあらゆる場所で最先端の技術を施した様々な機械がこの世の中には存在する。そしてそんな機械がなければ私たちは生きていけないほど、この世の中心になっているってわけ。」

『てれび…、そうじ…き、しゃわ…?』

「…これも全部順を追って説明していかなきゃね。」


頭の上でクエスチョンマークを大量に生み出しながら、うーん…?と何かを悩んでいる不破雷蔵。

ああ…今日一日は説明で終わるな…。


何処か諦め気味にそう思った私は次にポケットの中に入れている携帯電話を説明しようと手を伸ばした。


   

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