明日天気になあれ!
□02 土足で入る赤い心臓
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不破雷蔵。歳は14、性別は男。室町の時代に生きた忍の卵であり約500年もの間、未練を晴らす為に自らの声を聞け尚且つ祓う力のない人間を探してきたある意味執念深く厄介な霊。
そして我が家の居候、です。
『居候とは言わないんじゃない?死んでるし。』
「うるさい。今すぐあの山に戻して来たっていいんだよ?」
『それは困るなぁ。』
あはは、と笑った不破雷蔵。
そのへらりとした笑顔が何だか妙に癪に感じて私は彼から目を逸らした。
あの日…山奥で不破雷蔵と初めて会った日…。私は不破雷蔵に力を貸すことを約束してしまった。
事の発端は奴が私に向けて言い放った一つの言葉。
『僕を、助けてくれないかな。』
思わず「…は?」と言ってしまった私だが別に悪くはなかったと思う。むしろ当たり前の事だ。
霊と関わるなんて真っ平御免、しかも助けろなどと、ふざけるなとしか言いようがなかった。
『無理を承知でお願いしてる。けれど霊力を持った人間はとても少数なんだ。その中でも祓えずとも力はあるという君みたいな人間は極めて稀。』
「そんなの私の知った事じゃ…」
『五百年、五百年待っていた。君を逃したら僕は一体あと何年待てばいいんだろう。』
そう言った不破雷蔵の瞳は悲しみと絶望で陰っていた。
…まずい。
そう思ったと同時に私は重い口を開いていた。
「わかった、わかったから。あんたの力になる。なればいいんでしょ?」
『ほ、本当かい!?』
ぱっと明るくなった不破雷蔵に私は脱力すると共に心の中で安堵のため息をついた。
霊というのは危うい存在だ。感情ひとつでころりとかわる。悪霊にも、善霊にも。
だから陰りというのは霊にとって非常に危険なものだ。
やはり陰りを察知する人間というものも極めて稀、私はその極めて稀な人種。本当に厄介だ。しかしながら察知出来るからこそ、その危険性を知っている。
五百年を過ごしたこの霊が悪霊と化していないのは相当な執念、もしくは力がある証拠。
祓う力のない私にとって悪霊になられちゃ打つ術なし、あの世に引きずられるのがオチだ。
だから私は奴の言葉に頷いた、私だって命は惜しい。
そんなこんなで不破雷蔵は秘密の居候として我が家に来たわけだ、が。
「…力になれって、私になにをしてもらいたいの?」
具体的な説明を何も受けていない。
思わずじと目で不破雷蔵を見たが奴の表情に私は少しの間、固まってしまった。
切なく悲しげな、しかし何かを愛おしむような。そんな目を、していたから。