短編
□食いしん坊ガール、恋に落ちる。
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「飢えた。」
「うんまだ1時間め終わったばっかだけどね。」
「我は飢えた。」
「我慢しろ。」
「飢ーえーたー!」
「叫んでも食べ物は降ってこないよー。」
「飢えたなうううううう!」
「何がなうだよいい加減殺意湧いてくるからやめろ。」
兵助怖い。あ、嘘。勘ちゃん以外の1組みんな怖い。
叫ぶ私をあるクラスメートは白い目で、またあるクラスメートは眉をひそめ、とりあえず全員が迷惑そうにチラ見してくる。
彼等が向かう先は教科書の広げられた机さん。
1組は所謂特進クラスってやつで、まぁこれが当たり前の光景なんだろうけど。
例外は私と勘ちゃんだけだ。勘ちゃんはやらなくても出来る天才型、私はやらなきゃ出来ない努力型。だがしかしBAD、今は全くと言っていいほどやる気が起きない。
しかも私の腹は1時間めの半ばから空腹を訴え続けていて、それを無視出来るほど私は無情な人間ではない。
「ってことで、お菓子頂戴!」
「黙れ蹴っ飛ばすぞ。」
「バイオレンス!」
冷めた顔で何て事を言うんだこの美少年。
涙目で勘ちゃんに助けを求めても肩を竦めて苦笑いするだけ。
「ごめん、今日はお菓子持って来てないんだ。」
「そんなぁ…っ。」
私、終わった。
勘ちゃんからの死刑宣告にぱたりと机に倒れる。
あー、もう無理。死んだ。
「よっ。兵助、勘右衛門!…って、相変わらず1組は静かだな。」
「ちょっと三郎、余り騒がないでよ。皆に迷惑でしょ。」
「あ、三郎に雷蔵。なしたー?」
ん…、誰か来たのかな?
聞いてる限り二人の友達みたいだけど、私知り合いじゃないし。第一起き上がる気力ないし。まぁいいや。このままでいよう。
「悪い、数Uの教科書貸してくんね?」
「またー?いい加減自分で持ってきなよねー。はい。」
「さんきゅ!んじゃ!」
おー、去れ去れ。今の私は苛立ち度共に無気力度MAXなんだ。部外者は去れぇぇぇ!
「はい、これ。」
「………え、」
不意に、ころん、という軽い音が鼓膜に響いた。
思わず顔を上げると、机の上には光に反射しながらきらきら輝く二つの飴玉が転がっていて、
…え?
「ごめんね、こんな物しかないんだ。足しにもならないかもしれないけど、良かったら食べて。」
ぱちくり。瞬きを数回繰り返し、私は緩やかに視線を上げる。
その瞬間、私の視界一杯に広がったのは、満面の笑み、で。
…わお。
食いしん坊ガール
恋に落ちる。
(恥ずかしいなお前、廊下まで聞こえてたって事だぞ。これを機にいい加減黙るんだな。)
(雷蔵やっさしー。…って、さっきからボーッとしてるけど、大丈夫?)
(雷、蔵君…。雷蔵君。…。…今のはかっこよすぎるでしょおおおおおおおおおおおおお!!!)
(ぶちっ。)
(ちょっ!兵助落ち着いて!真顔で机持ち上げないで!それは流石にまずいからぁぁぁ!)
(…前言撤回、1組うるせー。)
(ふふ、廊下まで丸聞こえだもんね。)
(雷蔵も珍しいな。見知らぬ女子にあんな事するなんて。)
(余りにも悲痛な叫びだったもんだから、ついね。)
(ふうん…?)