短編
□追憶を青で閉じて終末
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どうぞお伝え下さい。
言葉を失くしてしまった彼の人に。感情を落として逝った彼方へと。
手を合わせ頭を下げた、隣に座る彼女につられ私も瞳を瞑る。
淡々とした言葉はまるで砂のように耳を通り過ぎて行った。
静けさはまるで古びた社を包むように辺りに充満し、何とも言い表せない気持ち悪さに思わず身じろぎをする。
その気配に気がついたのか、彼女の大きな睫毛が揺れる。
黒く丸い瞳が私を射抜くのに、時間はいらなかった。
「あんたもちゃんと頭下げなさいよ。」
「あのな、いきなりこんな古びた田舎の神社連れて来られて、こっちは困惑してんの。無茶言うなよ。」
「いきなり、って。」
「何?お参りしたかったの?願掛けなら駅近くの神社でも良かっただろ。わざわざ三つも電車乗り換えてこんな所にまで来る必要、あったわけ?」
頭を掻きながら彼女の方を向けば、ぱちくりと数回瞬きをしながらこちらを凝視する姿が一つ。
それは紛れもなく唯一無二の幼なじみの姿。
だが、その訝しげに目を細める動作が何故か見知らぬ人間に見えた。
どきり、と胸が鳴る。
「…あ、そっか。」
不安げに脈打つ心臓へ染みる涼やかな声。
言葉を発した彼女は、いつも通りの彼女へと戻っていた。
「ごめん。」
ほっとしたのも束の間、いきなりの謝罪に今度は私が訝しげに眉を潜める番だった。
何なんだ、一体。
今日のお前、おかしいぞ。
そう、紡ごうとした唇は、膨らみかけた瞬間に、止まった。
「自分の命日に自分で手合わせるなんておかしいか。」
さあっと、初冬特有の木枯らしが身体をすり抜けた。
靡く髪が頬に当たるのも気にならず、ただ前に立つ彼女を見つめた。
その黒い瞳に映るのは、紛れもない私。他でもない、私。だというのに。
「思い出した?」
こてん、と白い首が傾げられる。
それに合わせ、長い睫毛に縁取られた鏡のように全てを映す瞳がそっと閉じられた。
「…そうか、今日か。」
やっとの事で絞り出した言葉は、果して私の物だったのか。
それさえも分からぬままに私は溢れ出る青色に身を委ね、掌をそっと合わせた。
追憶を青で閉じて終末
「やっと、約束、果たせた。」
薄い笑みに重ねられた膨大な時を感じて。
私はまた一つ、青を零した。