短編
□涙さえでてこない
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ぼうっと空を見上げていた。
何となく、雲が掴める気がして手を伸ばしてみる。
案の定私の手は空を切りぱたりと虚しく腹へと落ちた。
「届くと、思ったんだけどなぁ。」
どこで計り間違えたのか。
いいや、初めから間違えてた。
届く筈がなかった、余りにも距離がありすぎた。
無謀な挑戦。思わず嘲笑いを浮かべる。馬鹿馬鹿しすぎて、涙まで出てきた。
「…遠い、なぁ。」
遠すぎて、見えなくなってしまいそう。
広くて大きなその背中が霞んで見えるのが何よりの証拠でしょ?
「…さや?」
音もなく。気配もなく。
現れた貴方はやっぱり遠い。
「なんでもない。」
差し出された手をとろうとして、やめた。