短編
□後悔なんて、してないから。
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「お前、馬鹿なの?」
「そっくりそのままお返しします。あんた馬鹿なの?」
「…こっちは真面目に聞いてるんだぞ。」
「あらやだ。まさか三郎から真面目なんて言葉が出るなんて…。明日は槍でも降るのかしらぁ。」
「はぐらかすなよ、馬鹿さや。それにお前が女言葉とか…気持ち悪。」
「馬鹿馬鹿うっさいっての!てか気持ち悪いってなんだ!」
「そのまんまの意味だよ、ばーか。」
軽口を言い合う私達。その姿はきっと第三者の目から見たら異様な光景なのだろう。
血だらけの装束、地に突き刺さる刀、燻る煙、漂う異臭。転がる屍の山々。仲間の山々。
紫、緑、そして青。色とりどりの装束が点々と落ちた地。
「…本当、馬鹿だよお前は。」
「私が馬鹿ならあんたは大馬鹿もんね、三郎。」
つう、と赤い液体が苦無を伝った。
くしゃりと彼の表情が歪む。
「何で、こっちに来たんだよ。何で、お前まで…!」
「…。」
ふっと横たわる骸に視線を移した。傍にあったのは四つの屍。
その少し先にはこれまた四つ、更に先には六つの屍があった。
尊敬していた先輩達。可愛い後輩。大切な友人達。私達が殺した人達。
一つ一つ、閉じられた瞼を見た私は少ししてからまた顔を上げた。
「私が、あんただけに背負わせるとでも?」
目の前で今にも壊れてしまいそうな三郎がぐっと唇を噛んだ。
「…馬鹿、野郎。」
消え入りそうな声でそう言った三郎。
ほら。一人にしないでよかった。
「雷蔵、兵助、勘右衛門、八左ヱ門、綾部、平、三木、斎藤、立花先輩、潮江先輩、七松先輩、中在家先輩、善法寺先輩、食満先輩…。」
がらんどうの瞳から流れ続ける涙が地を濡らし、終わる事のない謝罪の言葉、握りしめた手に食い込んだ赤い爪。
私はね、あんたを一人になんて出来ないの。
「悪い、悪かった…!ごめんな、さや…!」
もう泣かないで。謝らないで。
後悔なんて、してないから。