短編

□忘れないで、思い出して
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「麻痺、っていうのかなぁ。」


ぽつりと君が呟いた。

赤く染まった手を、濡れた指を、じっと見つめながら。


「なんとも、思えなくなっちゃった。」


そう言って片頬を上げた彼女の瞳は酷く虚に見えた。



「望んでたはずなのにね。」



そう言って笑ったさやを見たのは調度一年前。そして今、久しぶりに彼女とペアを組んだ僕はただただ目の前の血で真っ赤に染まった歪んだ姿を見つめる事しか出来なかった。

周りに転がる屍。燻る煙。散らばった刃。幾多もの命を越えてきた僕ら。越えなければならない僕ら。

その恐怖と罪の重さに押し潰され、壊れ、この道を諦めて行った友を何人も見てきた。

最後まで残った僕も、何度も泣いた、何度も潰されかけた。

目の前の彼女も同じだった。人を殺める度に泣いていた。

その様は余りにも痛々しく、傷付く事を恐れもがいているようにも見えた。

そして彼女は傷付く事を忘れ、感じなくなる事を選んだ。




その結果、彼女は優秀な忍に。そして、欠落した人となっていた。



「帰ろう、帰ろうよさや。」

「どうして?まだ生き残りがいるよ?」

「任務は終わった。無駄な殺生はするべきじゃない。」

「ねえ伊作、どうして伊作は私が人を殺すのを嫌がるの?私もう痛くないのよ?辛くないのよ?」


そんな暗い目で言われたって何の説得力もないというのに。

鈍く光る刃を離さずに笑う彼女。


ああ、君は忘れちゃいけなかったんだよ。痛みも、傷付くことも。

その痛みが君を守ってくれていたんだ。









忘れないで、思い出して
(私の声が、聞こえますか?)




ーー

イメージソングはF/L/O/WのS/i/g/nです

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