★ 流れ星に願いを。 ★



ここ数日の冷え込みは激しく、風邪をひく人が日々増えていると朝のニュースで言っていた。

…そして今日の部活中、三橋もそのうちの一人に加わった。


   * * *


冷たく澄んだ夜空が広がる下を、自転車で風をきって走っていると、
隣で三橋がくしゃみをした。

「はくしゅんっ!」

「大丈夫か? 三橋」

「うん…だいじょうぶ…っくしゅん!」

「…ちょっと停めろ」

阿部は自転車を停めると、首に巻いていたマフラーをはずした。

「ほら、オレのマフラー貸してやるよ。少しはマシだろ」

「あ…ありがとう」

阿部がマフラーを巻いてくれている間、三橋は夜空を見上げていた。

「・・・あ。阿部くん、今の見た?」

「え?」

「流れ星。一瞬だったけど」

「へぇ。珍しいな、流れ星なんて」

「でも、はやすぎて願い事できなかった…」

「待ってりゃもう一回くらい見れるんじゃねーか?」

「そうかな…」


   * * *


・・・その場に佇むコト、5分。


「…さみぃな。オレも手袋してくりゃよかった」

「あ、このマフラー…」

「いいよ。お前の風邪がひどくなったらオレも困るし」

「でも…阿部くんに風邪ひかれたら、オレもやだよ」

「じゃ、こうしよう」

阿部は三橋を背後から優しく抱きしめた。
三橋は阿部の手がさむくないように、手袋をはめた手で上からにぎりしめる。

「…こんなにくっついてたら、風邪うつんないかな?」

「平気だろ。あったかいし」

阿部の答えはちょっと違う気もしたけれど、
三橋は背中から伝わるぬくもりに離れてほしくなくて、なにも言わないことにした。


「・・・あ、また!」

「・・・」

「・・・」

「ホントに一瞬だったな。」

「うん。何か願い事できた?」

「1回だけな。3回くりかえすなんて絶対ムリだろ」

「ね、阿部くんはなんてお願いしたの?」

「お前が教えてくれたら教えてやるよ」

「オレ? オレはね、『阿部くんとずっと一緒にいたい』ってお願いしたんだよ」

「なんだ。考えるコトは変わんねーな、オレたち」


お互いに同じ願い事をしていたと知ると、
二人はなんだかくすぐったいようなシアワセな気持ちになり、ちいさな声で笑いあった。


   * * *


「…もう1回降らねーかな。流れ星」

「何回降っても、きっと3回は言えないよ」

「おんなじ願い事なんだから、二人分足して数えるのもアリなんじゃねーの?」

「…流れ星ってそーゆーものだっけ?」

「そーゆーもんだよ。流れ星なんて」


流れ星にたよるほど不自由な恋愛はしてないし、と阿部が言い、
それじゃお願いしなくてもいいんじゃないの? と三橋が訊く。


「これからもしケンカとかしてさ、互いにイヤな気持ちになった時に、今日のコトを思い出すんだよ。
 こうして抱きしめてるあったかさとか、今のシアワセな気持ちとかを思い出せたら、すぐに仲直りできるだろ?」

「うん。オレ、今のこの気持ち、ゼッタイ忘れないよ。
 阿部くんがオレにくれたぬくもりも、オレが阿部くんにあげたぬくもりも。忘れないから」

阿部が腕をゆるめ、三橋が阿部の方に身体を向ける。


・・・それから二人は、お互いの冷えた口唇があたたまるまで、甘いキスをくり返した。


   * * *


翌日、二人は仲良く風邪をひいて熱を出し、学校を休むことになった。




End★

 

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≪あとがき≫

…たまにはこんな、かわいくて甘い飴玉みたいな話もいいんじゃないでしょうか

ちなみに今回はページの背景に夜空のイラストを使用してみました★
見れない方、見にくい方はゴメンナサイ…ι


 

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