Heavenly Blue

□SNOW DROP
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・・・その日は、「しばらく晴れが続く」と宣言していた天気予報を裏切り、
昨夜のうちから深々と降り続けた雪で、街が汚れのない白に彩られていた。



当然雪にうずまった学校のグラウンドが使えるはずもなく、
部室で今後のミーティングが行われただけで、その日の西浦野球部の活動は終了した。

まだ除雪作業の間に合っていない道が至るところにあり、自転車で走るのは危険なので、
この日ばかりはほとんどの生徒が徒歩か電車を利用している。


阿部と三橋も徒歩で帰り道を歩いていたが、
踏み固められた雪に足を滑らせて何度も転びかける三橋を、その都度支えてやるのに疲れた阿部の一言で、
小さな公園のベンチに寄り道することになった。

近くのコンビニであったかい缶コーヒーと肉まんを買い、
雪が積もっていない場所を探して屋根下のベンチに腰を落ち着ける。

「お前な…さっきからフラフラしすぎだろ。
 体幹鍛えてんのに、なんでしょっちゅう足滑らせてんだよ」

「…だ、だって…」

「ほんっと、いつまで経っても危なっかしさが直んねェよな、お前って。
 オレがずっと一緒についててやんねぇと、すっげー不安になるよ」

「…ずっと一緒…は、オレはすごく嬉しい…けどな…」

「なんか言ったか、三橋?」

「うっ、ううん!!」

三橋はばたばたと手を振ると、不審そうな阿部の視線から逃れるために、熱いコーヒーに口をつけた。


・・・それからしばらくは、間食で身体を温めながら野球や学校の話をしていたのだが、
阿部は途中から三橋が話を聞いていないことに気がついた。

三橋は屋根の向こうで今も降り続けている雪を、ぼんやりと眺めている。


「三橋? 雪がどうかしたのか?」

「・・・」


阿部が話しかけても、三橋の表情は変わらない。

ただ雪を眺めているというよりは、雪に触発されて遠い何かを思い出しているような…そんな瞳をしている。


阿部は三橋がひと時の思い出から目醒めるまで、しばらく我慢しようとしたが、
寒い中無言でいるのは思いの外ツラく、結局三橋を揺り起こした。


 
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