REBORNブック
□5分のキッカケ
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本当に、それは偶然だった。
でも世界には偶然なんてものはなくて、もしかしたらそれは必然だったのかもしれない。
頭でぐるぐると考えたってあたしの目の前にある光景は真実で、いくら否定しても否定しても変えられやしない。
神さまなんか、キライよ。
こんなもの、見たくなかったのに。
誰もいない放課後の屋上の影に隠れて、無情なまでに冷たいコンクリートに背中を合わせた。
涙が頬を伝って、なんだかしょっぱい。あたしがさっき見た映像が何度もフラッシュバックして、心をキリキリと締め付ける。あたしが見たものは、あたしが見たものは片思いをしてた人とその彼女。うん、ただそれだけ。まだ始まってもなかった恋の、終わりのベルが静かに響いただけ。
『…ばーか』
行き場のない気持ちを吐き出すように、誰もいない空につぶやいた。気持ちとは反対に、空はとても澄んでいる。皮肉なものだ。
涙は止まらない。
ハンカチはすでにびしょびしょで、ポケットにいれてたティッシュは全部使ってしまった。クシャクシャになったそれらの山が、かなりの時間ここにいたことを示している。
うーん、これからどうしようか。
すると、ガタンと屋上のドアが開く音がした。ビクッと肩を揺らし、音の方向を頭を向ける。
『……獄寺じゃん』
「オメーなにやっ、て…」
あいつのいつもの怖い顔が少し崩れた。まぁ当たり前か。たぶん今のあたしの顔は相当ひどいだろうから。
『獄寺こそ、なんでこんな時間にきてんの』
「なにがあったんだよ」
せっかくはぐらかそうとしたのに、獄寺はそれを許さない。
鋭い奴め。いや、鈍いのかな。女子がこんななって泣いてるなんて、だいたい想像出来るもん。
『…ただの、失恋。あはは、かっこわるいよね。始まる前に、終わっちゃった』
グイと目に張り付く涙を拭い、無理やり笑みを浮かべた。ううん、無理やりでもない。自分の情けなさに笑えてくる。涙もでる。
『でも、大丈夫だよ。あたしはそんなに弱くないからさ』
「嘘つけ。だったら、」
獄寺はいったん言葉を切って、息をはいた。
「そんな今にも崩れそうな顔してんなよ」
あたしは顔に手を当てた。まぶたが熱かった。獄寺の真っ直ぐな目が今は痛いだけで、灰色に視線を落とす。
ガザ、と靴音がした。
ツンと煙草の匂いが鼻をついて、あたしは、獄寺の腕のなか。
不思議と驚きはしなかった。
少し、気づいてたから。獄寺があたしに、ほんの少しだけ優しいことに。
「泣くんじゃねーよ」
とても心地よくてあったかくて、また涙がこぼれた。
5分、5分だけ。
あんたの腕に甘えることにするよ。
きっと体が離れたとき、あたしの気持ちは別な方向に向いてるだろうから。
今度は、始まりのベルが響いた気がした。
5分のキッカケ
(ありがと、元気でた)
(て、てめーが泣いてっと気持ちわりーんだよ!)
(フツウにどういたしましてとかって言えばいいのに…)
071117