宝物ブック
□ねぇ、近くに
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開きっぱなしの携帯電話。もちろんそこはメールも電話も知らせない。泣くもんか、泣いたら、もっともっと惨めだ。止まらなくなって一人延々泣くなんて絶対嫌。
三十分前に送ったメール。それを後悔しながら、目を閉じる。
『来てくんなきゃ、別れるから。』
なんで、こんなこと送ったの。こんなのただの我が儘だ。鬱陶しい、重い、馬鹿みたいだ。本当に言いたいことはこんなのじゃないのに。
でも、クリスマスは特別だから一緒にいたかったんだよ。
『ごめんね、嘘だから。』
『我が儘ばっかりごめんね。』
『楽しんで来て。』
『次の休みは、一緒にいて。』
『孝介が好きだから、一緒にいたいよ。』
宛先はそのままで、何度も何度も本文を変える。打っては消して、また打っては消して。駄目だ、どれも空々しい、虚しい。孝介は来ない。
「……帰ろう、かな…。」
待ってたって意味ない。孝介はドライな性格してるから、きっとあたしの送ったメール見ても「ああ、そう。」くらいにしか思ってないんだ。証拠に返信どころか電話もこないまま。
来るわけ、ない。
「…どこに帰るつもりだよ。」
「………え…?」
来るわけ、ない。そのはずなのに、なんでか孝介の不機嫌そうな声が聞こえる。おそるおそる顔を上げる。白い吐息を吐きながら立っているのは間違いなく孝介で、走って来たのか寒いのに薄く汗をかいて、ムッとしたまま携帯をを突き出す。
そこに見えたのは、あたしが送ったメール。
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