宝物ブック
□ねぇ、近くに
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恨めしい、目の前を歩く恋人達が。
苛々する、鳴らない携帯電話が。
涙が出そうになる、奇麗すぎる大きなツリーに。
惨めすぎる、友達より格下な私が。
「馬鹿孝介…っ。」
知らない、知らない、あんな奴。彼女との初めてのクリスマス放り出して、友達と、しかも野球部の連中と楽しく過ごす奴なんて。あんな薄情な奴、別れて正解。清々したっての。
「電話もメールも来ないって、どういうことよぉ…。」
要するに、その程度ということなのか。あたし達はそこまで重要な、大切な名前をつける程の関係じゃなかったってことなのだろうか。あたしは、こんなに大好きなのに。クリスマスを一緒に過ごせないだけで拗ねて、思わず別れるなんて言ってしまうくらいに
大好きで、仕方ないのに。
『クリスマス?』
『ねぇ、いいでしょ?付き合って初めてのクリスマスなんだし、どっか行こうよー。』
『無理。先に約束しちゃったし。』
『はあ!?』
『お前なんも言わねえから興味ねんだと思ったんだよ。』
『な、馬鹿!!ふつー孝介から聞くでしょー!?あたし、ずっと待ってたんだよ!?だけど孝介がなんも言わないから…!』
『とにかく、無理なもんは無理。それにさ、お前わかって……。』
『……もういいっ!孝介の馬鹿っ!!』
一週間前、こんな会話をして、それ以来まともに口もきいてない。だってすごいショックだった。あたしは男の子とする全部、孝介が初めてで、それは全部嬉しくて幸せで。
でも孝介は違ったのかな。だって、一緒に過ごしたいって思ったら他の約束なんてしない。一緒に過ごそうって言ってくれるはず。
でも孝介はなんも言ってくれなかった。一週間ずっと待ってたのに、なんも言って、くれなかった。
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