無双

□月影
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死ネタ?




暗く、冷めた風が頬に当たる。

月が暗い森を青く照らす中、一人走る者が。
息を切らし顔を青冷めて走る姿は何かに追われているかのよう。
何度も後ろを振り向き、必死に足を動かす。

――早く、早く逃げなくては…!

茶色の髪を靡かせながら政宗はただひたすらに走り続ける。
奥州の覇者である自分が逃げる姿など、何て滑稽なことなのだろう。でもそんなことを考えている暇はない。
武器の太刀や銃は、置いてきてしまった。不甲斐なさに舌打ちをする。

瞬間、聞き慣れた銃声が森全体に響いた。


「―…ッ!?…ぁ、がっ!痛……っ」

太股が熱くなったかと思ったら、鋭い激痛が走った。撃たれたのだと悟った。
地面に倒れ、どくどくと脈を打つかのような音で血が溢れ出る。

「ぅ……くう…っ!」

血を止めようと、手で抑えつけるが止まらず無駄な行為になる。

撃った者は言わずと分かる。

「流石俺、夜で視界が悪くても見事に当たったぜ」

獲物を仕留めたかのような口調で右手に火繩銃を持った孫市がゆっくりと近づいてくる。
政宗はきつく撃った本人を睨む。

「そんな顔をするなよ、政宗。逃げたお前が悪いんだぜ?俺達、ダチだろ?」

「は…っ、貴様はダチにこんなことをするのか?…随分と曲がった奴よ」

血が今だ足に伝いながらも、政宗は口端を吊り上げ嫌味を言う。
顔は痛さと緊張で脂汗が滲む。

孫市は政宗の傭兵だった。なのに何故、彼は己にこんなことをするのか。
それが政宗にとって理解ができなかった。

――何故?、


「はは…お前は俺のことダチだと思っているんだろうが、俺はそうじゃねえ」

動かない太股で、必死に地にはいつくばって逃げようとする政宗を足で抑えながら孫市は笑いながら話す。
その笑みは酷く冷たく、背筋が凍るものだった。

「……っ、ぐああ!…ッく、ぅ…」

「好きなんだよ、政宗。お前だけが好きだ」

言っている事とやっている事がまるっきり違うではないか。
矛盾している。

足を払おうともがく政宗の前髪を掴み、近くにある木に投げつける。
背中に鈍い衝撃が走ったが、息を吐いてやり過ごす。

カチャ、と音がし、はっと見たら孫市が火繩銃をこちらに構えていた。
政宗は無意識にゴク、と喉を鳴らす。

「なあ…政宗、俺の言うことは全部聞いてくれたら…引き金を引かない。けど、聞かないんならその両腕を撃つ」

「……な…っ」

ふざけるな、と叫ぼうとした瞬時、頬に熱い感覚を感じた。木から白い煙が出ているのを見て、政宗は隻眼を見開く。
撃たれた頬から真新しい血が地面に向かって落ちていく。

「俺は…本気だからな」

どすの効いた声に、自然と身体が震える。

孫市はこういう奴だったか?
もっと優しく、いつも己の背を守り笑いかけてくれていた。

何が彼をここまで狂わせたのだろうか。


「じゃ、よく聞けよ。否定したら……分かるよな?」

「…ぅ……っ」

ずきずきと太股が痛む。でも、緊張で座る事すら出来ない。
心臓が鼓動を増す。

「政宗…お前は伊達をやめて俺と一緒にいろ。二人で暮らそう」

「…!?…な…っ、何を言っておる!?儂が伊達家をやめるなど……ぁあああ゛――!!」

「……左腕、命中」

腕に一気に三発撃たれ、政宗はあまりの激痛に叫ぶ。孫市はその様子を嘸楽しそうに眺める。
苦痛に顔を歪める政宗にぞくぞくする。

「…ひ…っ、あ…あ…!」

もはや鋭い激痛に政宗は呻き声しか出せない。冷や汗が背中に伝っていく感覚が気持ち悪い。
心臓がドクドクと大きく悲鳴をあげている。

このまま否定し続けたら、いずれ己は死ぬかもしれない。

生きたい。
でも、伊達家をやめてでも生きたくない。


「…政宗、痛いか?辛いか?顔を縦に振るだけで楽になるんだぜ……なあ、」

左胸に銃を突き、政宗の返事を待つかのように孫市は囁き続ける。
けど頑として政宗は首を縦に振ろうとしない。

乾いた唇が動く。

「……儂は貴様のものに…なるくらいなら……死んだほうが、ましじゃ」

「―――ッ!」

孫市は酷く悲しそうな表情をし、次には暗い目になっていた。

「…そうか、残念だな」


ぐいっと髪を掴み強引に口づけをする。

「…んっ、!?…ふう……ッんん――」

政宗は苦しそうに眉を寄せ、必死に孫市の胸を押すが力の入らない腕では意味がない。
地面には血の水溜まりが出来ており、政宗の顔は真っ青になっている。

深い深い口づけをし、政宗の胸に押し付けていた銃の引き金にそっと力を入れる。

それに気づいた政宗は抵抗をやめ、静かに目を閉じる。






――パアン、OFF





月が 消えた









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