無双

□愛育
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政宗が半分猫なので、注意。





ある昼下がり。
一つの屋敷の縁側に、猫の耳と尻尾が生えた青年が一人座っていた。
いや、元青年と言ったほうが正しいのかもしれない。
縁側にちょこんと座る姿は、親を待っている幼子のようで誰が見ても可愛いと思う事だろう。

「も、申し訳ございません……政宗殿、」

明るい外の空気と違って暗い顔をする赤い着流しを着た青年、幸村が小さな背に向かって謝る。
謝られた背はツンと前を向いたままで幸村を全く見ない。

「政宗殿……」

「〜〜っ、煩いわ馬鹿め!!何度もわしの名を呼ぶな!」

やっと振り向いてくれた顔は眉間を寄せ、腰から伸びる尻尾は威嚇をするかのように天の方向へと立てる。

こんな姿になった原因は幸村の忍び、くのいちのせいなのだが、つい幸村に当たってしまう。

「珍しい菓子だと言うから食べたら……っ、背は縮むは耳や尻尾が生えるは……貴様の忍びはどうなっておる!部下の躾ぐらいちゃんとしろ!!」

「誠に申し訳ございません!!」

ひたすら幸村は床に頭を付け、謝罪の言葉を繰り返した。
原因のくのいちは、どこかに消えてしまった。

「…………して、戻れるんだろうな?」

「え?」

「元の姿に戻れるのかと聞いておるのだ!馬鹿め!」

そんなことを聞かれても、幸村はそれを解く薬を知っているだとか時間が経てば直るなどは、さっぱり分からない。
この場にいないくのいちが恨めしく思う。大体、何故彼女は政宗にこんなことをしたのかさっぱり理解ができない。

「……私はわかりませぬ、」

素直にそう言うしかなかった。政宗はわなわなと体を震わせ、「もうよい!」と顔を前に向ける。
幸村はまた謝罪を小さく呟いた。嫌われてしまっただろうか。無理もないが…。

ふと政宗の動く尻尾が目に留まり、じっと見る。
政宗の髪と同じ色素の長い尻尾。左右に動作するそれに可愛いと無意識に思ってしまう。

猫独特の三角の耳は、落ち込んでいるのかしょぼんと下に下がっていた。
小さくなった丸い背は、抱き込んだらすっぽりと入りそうだ。

改めて見れば、とても可愛いらしい。
まるで本物の猫のようだ。

「…あの、政宗殿」

「………何じゃ」

「触っても宜しいでしょうか?」

「…は?」

顔は見えなくても、明らかに声は苛立ちが入っていた。
そして意味が分からないというな表情が返ってきた。

「え、と…その、少しだけ触らせてください!」

「………」

言葉が思えつかず、幸村は慌てる。

暫く変な沈黙が流れるだが政宗の溜息によって終わる。


「……少しだけじゃぞ、その代わりあの女忍びに元に戻る法を聞け。よいな?」

「!、はいっ!ありがとうございます!!」

ぱあっと幸村の顔が明るくなる。失礼します、と言いながら政宗の脇に手を通し、幸村の膝の上へと置く。
そして髪、頭をゆっくり撫でていく。
今まで槍しか握らなかった武士がこうも優しく撫でるられるのか、と政宗は密かに思った。

――というか、少しじゃないでわないか!

頭を撫でるだけかと思ったら、膝上に抱っこされるなど予想していなかった。文句を言おうと上を向くが、あまりにも幸村が幸せそうな顔をしていた為、政宗は気まずそうに視線をずらす。

−−ごつごつとした手の平はやはり武士じゃな。

撫でられながらそう感じ、徐々に睡魔が襲ってきた。
何度か格闘したが眠気には勝てず、政宗は重い瞼を閉じる。

「…政宗殿?」

規則正しい寝息が小さく耳に届いた幸村は彼の名前を呼ぶが、返事がない。
ふと笑みを零す。

「貴方は本当に可愛いらしい方だ…」

起きていたら鉄拳がくるであろう言葉だったが、政宗はすっかり寝てしまった様子。
幸村は何だか新鮮な気分になり、起こさず暫く撫で続けた。

それから二刻後に天井から音もなく、くのいちが降りてきた。

「ありゃ?寝っちゃったんですか、政チン」

「…くのいち、そなたは…」

「説教は聞かないですよ〜。でもいいじゃないですかあ幸村様、こんな可愛い政チンを見れたんですから☆」

笑顔でぺらぺらと話す彼女に幸村は諦めたような表情をする。

「政チンには悪いですけど、幸村様今凄く幸せでしょ?」

悪戯っ子のように笑うくのいちに苦笑する。

後で元に戻る方法を聞こうとどこか寂しく思いながら眠る政宗の閉じた瞼に口づけを落とす。


こんな甘い時間が暫く続いたらいいのに。




猫が起きるまで後、少し。




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