無双

□俳諧
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肌寒くなってきた頃、米沢城の一角では本を読む城主と外を眺める客人がいた。
外を見ていた兼続は、本を読んでいる政宗をチラ、と見る。

「客人の相手をするより本の相手のほうがいいか?山犬よ」

「……何も言わずいきなり来た貴様が客人じゃと?…わしは忙しい。さっさと越後に帰れ」

本から目を離さず、軽く兼続に向かって手で追い払う。
それに浅はかな苛立ちを感じ、兼続は政宗の横に胡座をかく。

「今度はなん……あ!?」

「ふん、随分と熱心だな。山犬のくせに字が読めるのか」

「返せ!馬鹿め!!」

読んでいた本をとられたことに政宗は眉を寄せ、不機嫌を表す。
手を伸ばすが如何せん背の差があり、爪先で立っても届かない。

気分が良くなった兼続は悪戯を思い浮かんだ子供のように嫌な笑みを浮かばせる。
本を取ろうと必死に伸ばす白く細い腕を掴み指を絡ませる。

「な…っ」

「どうだ、政宗。この本を返してほしかったら、私の相手をしないか?」

「…は?意味が分からぬ。世間話でもしようというのか?」

早く手を離せと政宗は体を少し捩る。
兼続は絡ませている手に力を込め、華奢な身体を畳に押し倒す。

ぎょっと政宗は隻眼を見開く。

「…これが世間話をしようという体制に見えるか?」


口を開こうとした政宗の唇に兼続のを押し付ける。
瞬時、くぐもった悲鳴が兼続の耳を侵した。

手に持っていた本を放り投げ、今からする行為に取り掛かる。
体重をかけ、ぐっと抵抗を阻止させる。

怯える政宗の一つの目に、一匹の蜻蛉が見えた。


その蜻蛉を見た兼続はどう思ったのか、着物の帯を無理矢理に解かせ、より激しくなった。


まるで蜻蛉は二人を見るかのように高い天井を飛び回る。




――何という、滑稽(俳諧)なものなのだろうか







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