無双

□奪竜
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嗚呼、
私は一目見たときから、政宗殿に惹かれていたのだ。

あの凜とした勇ましい姿、人を拒むかのように大きくかつ鋭い一つの眼。

美しい

心の底からそう思った。

そして、この手で竜を地に落としたい。
天などにこの美しい竜を渡してなるものか。竜の見えなき羽を折り、一生空に駆けぬけぬようにしてやる。

早く、行ってしまう前に政宗殿を捕まえなければ……。


「……政宗殿………」


貴方をこの手で…必ず…私のものに。







場は奥州、米沢城。政宗が納める領土では、大きな騒音が響き渡っていた。
城外は戦場と化し、城を必死に守ろうとする者と意地でも城に入ろうとする者達がお互い攻めあっていた。

「どういうことだこれは…」

城内からその状況を政宗は眉を寄せながら、冷静に見つめていた。

……おかしい
二刻前、いつものように政の仕事をしていた政宗に火急な知らせが入ってきた。
いきなり敵が米沢城に押し寄せてきたのこと。
その敵の旗刺物には六文銭の印しが。
政宗は驚愕した。

何故だ…。
一月前、真田家と宴会をし、同盟を結んだはず。脳内に‘裏切り’という言葉が浮かんだ。
政宗は怒りと困惑を滲ませながらも部下に兵を出せと命じた。

そして今に至る。


「政宗様!伊達軍、真田に押されている模様!このままでは城内に敵が入ってしまいます!」

伊達三傑の一人、鬼庭綱元が慌て政宗に報告する。政宗は舌打ちをする。
ずっと戦いを続けば城は落とされ、兵は無駄死になる。
被害はできるだけ最小限にしたい。
いや、兵どころか当主の己までもが危ない。
暫し考え、政宗は陣羽織りを着、戦闘体制に入る。腹心の片倉小十朗に正室の愛姫らを避難させよと命じる。

「ふん、豪族風情などに我が伊達家が負けると思うてか…」

愛刀と銃を持ち、政宗は城から飛び出す。
外は伊達軍の死体が嫌でも目に付く。政宗は苛立ちを隠さず、舌打ちをする。
向かってくる真田軍を斬りながら、今だ現れない大将を探す。
しかし、予想以上に真田軍が多く、中々進めない。
敵兵が政宗の姿を見つけると一斉に飛びかかってくる。

「伊達政宗だ!必ず生きて捕らえろ!!」

「…?」

生きて……?
意味が分からない。
銃を撃つも、敵の数は全く減らず、逆に増えていくばかり。
集中的に政宗を狙っているのが分かる。

「雑魚が…!散れえッ!」

四方八方に乱撃をすると、やっと周りが見え始めてた。
周囲を見渡すと、成実や左月らが暴れているのが見えた。それに安堵の溜息を吐く。

成実達に加戦しようと足を動かした瞬間−−…。

「……ッ!?」

横から槍の刃が現れ、反射的に体を後ろに倒し避けるが、頬を掠ってしまう。

−−!、この槍は…っ


そのまま政宗は、相手から距離をとるように大きくバックテンをする。
距離をとり、息を整える。

「……幸村」

「お久しぶりですね、政宗殿」

政宗に槍を振るったのは予想通り幸村だった。
赤い鎧を着、政宗より幾分背が高いこの青年は嫌でも見上げてしまう。

政宗は目を細める。
優しく、それでいてどこか冷たい雰囲気を漂う幸村に違和感を感じる。
何だ……この感じは?目の前に居るこの男は自分の知っている幸村か?

「…何故米沢を攻めた?昌幸殿の言い付けか?」

「いいえ、父上は関係ありません。これは私個人でやったことです」

「貴様個人じゃと!?」

益々意味が分からない。

「…政宗殿、私は今日貴方を迎えに来たのです」

「迎えに…だと?」

幸村は、はいと一言言うと政宗にゆっくりと近づく。

「前々から貴方のことをお慕えしておりました」

「……な…っ」

「好きです」

驚く政宗の頬にそっと触れる。
幸村の槍の刃で切れた頬は、今だ新しい血が流れ続けている。

「愛してます、政宗殿」

政宗はあまりのことに声が出ない。

頬を今だ触る手を大きく跳ね除ける。
−−パシン!

「……わしを好きだと言うが、貴様の行為でどれだけの兵を犠牲にしたと思っている」

先程の、死んだ伊達軍の兵達を思い出し、怒気を孕んだ声で静かに言う。

政宗は密かに幸村を尊敬していた。誰よりも真っ直ぐで、固い意思を待った幸村が好きだった。


−−愛してます、

その言葉は何より幸村への信頼感を崩させた。

「貴方がどう拒もうと関係ない…言ったでしょう、迎えに来たと」

「……ッ!…が、はっ」

ゾクリと背筋が凍り、逃げなければと判断したときには遅く、腹に強い衝撃が走る。
手に持っていた武器を地に落としてしまう。
ギリ…ッと幸村の拳が腹を食い込む。

「は…ぁっ、あぐ…ッ」

痛みに耐えようとするが、悔しくもその場で意識を飛ばす。

口を月の狐のように歪ます幸村を最後に見ながら。



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