無双
□哀歓
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伊達家の後継ぎとして育てられていた最中、忽然とその後継ぎが姿を消した。
家中全員顔に冷汗を浮かべ、ありとあらゆる手を尽くした。が、結局見つからなかった。
父と母は悲しんだ。可愛い可愛いと愛情を費やしてきた我が子が居なくなるなど、思ってもいなかったのだから。
「梵天丸、聞いたか?皆お前を捜すのを諦めて、将来の家督は弟の方に決まったらしいぞ」
一人の青年が横たわる少年に楽しそうに話かける。けど、話かけられた少年は一言も発さない。
それが気に障ったのか、青年の顔から笑みがすっと消える。
「どうしたのだ、梵天丸。面白い話だと言うのに何故笑わない?」
‘面白い’?
何が面白いのだ。そうさせたのは、全てお前だろうが。
吐き捨てたい言葉を我慢し、梵天丸という少年は男をきつく睨みつける。
「…ほう、お前を此処に連れてきて幾日も経つというのに、まだ私に歯を向くか」
不機嫌な声が漏れた途端、音が出る程髪を掴まれ強引に引き寄せられる。
「……っ!」
「いくら私を拒もうと、此処から出られないことぐらいは分かるだろう?」
そのまま冷たい床に沈められ、梵天丸はこれから身に起こる事に息が止まる。
そして恐怖が体を動かす。
いやだ……!
「…ぃやだ…嫌だ!離せ!わしは帰りたい!!」
大好きな父と母に会いたい。
「帰りたい?…はっ、お前は一生、私と共に生きるのだ。これは決まっていた事だ」
暴れる小さな身体を抑えながら、折れそうな細い足を広げ、その間に青年の体を入れる。
梵天丸の腕を紐で縛り上げ、刃で動かないよう固定する。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!助けて父上え!母上!」
一つの眼から涙が零れ落ちる。
喚く子供に容赦なく平手打ちをすれば、びくっと怯える。
「諦めろ、誰も此処には来やしない。来れたとしても私しか入れないよう扉に札を貼っている」
「…っ、嘘じゃ……何故…何故、わしなのじゃ…ッ」
「ふ…愚問な事を聞く」
言っただろう?
これは決まっていたことだと……。
青年の名は、兼続。
幾日前、たまたま隣国に足を運んでいた兼続はある一人の少年を見つけた。
その少年に一目で心を奪われ、兼続はその小さな腕を掴んだ。
「お前は美しい……もう伊達には帰さない…」
泣き続ける梵天丸の髪を撫で、優しく口を落とす。
この狂った恋の物語りは始まったばかり。
終
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