無双

□強き貴方に
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「殿、最近寒くなってきたんですから、ちゃんと羽織を着てください」

「…ん」

赤毛の長髪が風に靡くのを見ながら朱色の羽織を渡す。が、殿と呼ばれた三成はそれを受け取ろうとしない。
さっき短く返事したのに…と三成の部下、左近は聞こえないよう溜息を吐く。

(…はあ、全くこの方は何を考えているのやら)

縁側に座って早数時間。何もせず、ただ広い庭を見つめているだけ。
池も鯉もない庭を見て何が楽しいのだろうか。木があるだけというのに…。

「殿、いい加減羽織を…」

「そうだ。久しぶりに京都に行かないか」

「…は?」

いきなり言い出した言葉に左近は心底分からないという顔をする。
数時間何も喋らなかった人が急に出掛けようと言い出したら誰しも首を傾げるだろう。

「…何で突然京都に行くことになるんですか?」

「いや…たまには近くの国でも行ってみようかと思ってな」

笑顔はないもののどこか楽しそうに見える。声がいつもより高い。

それより京都に行くって…一国の主がそんなことを言っていいものだろうか。一応敵国なのに。

「あ。安心しろ左近。ちゃんと百姓の格好するからな」

いや、安心しろじゃねえよ。
自分の立場を考えろ。それでも国主か。

「普通に考えてください。もし、前田辺りに見つかったらどうするんですか」

「そのときはそのときだ」

分かってねえよこの人。

そういえば、何で京都なのかを聞いていなかった。

「…どうして京都なのです?」

「……」

黙りこく三成に左近は脳内に?を浮かばす。本当に何を考えているのか分からないお方だ。


「……一度、秀吉様とおねね様と京都に行ったことがあるだろう」

「え?ああ、はい」

「そのときに………〜〜っ」

「そのときに?」

「……〜〜ッ」

顔を赤くし、その先を言わない三成。
暫く待つと形のいい唇が開く。

「その……欲しい扇子があって…あと、八橋という食い物を食いたく…て」

「………」

「さ、左近?」


「…ぶっははははははははははは!!」


「!?」

急に笑いだした部下に驚きの目で見る。こんなに笑う左近は久しぶりかもしれない。

「ははは!うちの殿は一番可愛い殿ですな!」

「っ!ぶ、無礼だぞ左近!」

笑いが止まらないのか半分涙目で、肩を揺らす左近に三成は更に顔を赤くする。


「無礼でもいいです。だって本当に可愛いお方なのですから」

「か…可愛いって、言うな!」

普段の冷徹はどこにいったのやら、三成は愛用の扇子で顔を隠す。
笑いが落ちついた左近は小さく、くす、と笑む。

扇子を持っている手を重ね、空いている手は細い肩を抱きしめる。

「!」

「そうですね。殿がそう仰るなら、京都に行きましょうか」



「何処にでもついていきますよ…殿…」

優しく耳に囁けば、林檎のように顔を赤くする主に微笑みを返す。








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