無双

□累月
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天下を取り、関白殿下となった秀吉に宴会をするから来いと呼ばれ渋々城と来た政宗だったが、


――何故、儂の横に兼続がおるのじゃ!?

呼ばれたのは各地の大名だけではなかったのか、と気づかれないよう奥歯を噛み絞める。
横に平然と座り、軽く酒を飲む男に激しく苛立つ。

本来ならば兼続のような部臣が大名と同じ席に座るなど、持っての他。
けれどもそこに兼続が居るということは、それ程まで秀吉が兼続を気に入っているのということ。気にいらない。

「おお!兼続、来てくれたのか!」

酒を手に持った秀吉がへらへらと笑いながらこちらの方向に寄ってきた。

政宗の姿も気づいたのか、秀吉は笑顔で手を振り、政宗は軽く頭を下げる。



それから半刻が過ぎた頃、酒をちびちびと飲んでいた政宗はふと、兼続を見る。
相変わらず兼続の髪は綺麗に整えられているが、緑色の髪紐が目に映った。

――こいつ、緑色が好きなのか?

いつも白で統一されているこの男が緑なんて似合わないと思った。
ましてや緑は政宗の好きな色の一つで、兼続に一層苛立ちが増す。

「……さっきから何だ山犬」

「!」

兼続が眉を寄せ、振り返る。
そんなに自分はじろじろと見ていたのかと政宗は慌てて視線を変える。

「…別に」

「ふん……私が気になるのか?」

「はあ!?」

気になる?
こいつは何ふざけた事を言っているのだ。

「……っ、戯れ言をほざくな馬鹿め!儂が気になったのは、その髪紐の色じゃ!」

………あ。
かっとなり、つい言ってしまった。
いつも自分の素直さには頭を抱える。この際言ってしまおう。

「きっ貴様に緑は似合わんと思ったのじゃ!大体、緑は儂の好きな色だと知っておろう!?何故この日にそれを結わえた!」

無茶苦茶な言葉だったが、兼続は政宗が緑色が好きと知らないはずはない。政宗の陣羽織りや、私服のほとんどが緑なのだ。
問われた兼続は唖然とする。

「何を言っている?この髪紐はお前が……」

そこまで言うと兼続は、はっとなり口を閉じる。

「何じゃ?儂が何だ?」

不思議に思った政宗は問い詰める感じで半分睨みつける。
兼続は一瞬気まずそうにし、次には普段の表情に戻っていた。

「髪紐ぐらいに、よく吠える山犬よ。何色にしようが私の勝手だろう」

「な…っ」

「それとも何か?嫌いな者に自分の好きな色を身に纏われるのが嫌か?ふん、短気な殿を持つ家臣が哀れなものだ」

嫌味をさらりと言うと、政宗は血管が切れる音が能内に響いたのがわかった。

「……ッッ、こっっのクソボケがああああ!!」

普段、馬鹿めと口癖な政宗が他の暴言を言うなど滅多にない。余程兼続に腹が立ったに違いないと周りの者は静かに思った。

子供同士のような喧嘩に秀吉は「若い奴は元気がええのう!」と呑気に笑っていた。
そんな秀吉にいや、止めろよと一斉に皆思っただろう。

喧嘩が酷くなっていく二人を慌てて左近と小十朗が止める。
小十朗は主である政宗を止めようと、後ろから抱き着く。

「ま、政宗様!どうか落ち着きくださいませ!」

「兼続ぅああ!貴様、覚えておれえ!次会ったときは貴様を地中深く埋めてやるわ!!」

「負け犬の遠吠えか!不義のお前は私に勝てないという事を知るがいい!!」

「なっ何じゃとおお!?」


「こら!二人共、喧嘩しない!!」

その後、ねねの雷が落ちたのは言うまでもない。





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