story
□赤い瞳の少女
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昔々、そのまた昔。ファルスという国があり、ラウラ姫という、たいそう美しい姫がおりました。
ラウラ姫の父、ランストン王は恰幅がよく、とても傲慢で無理難題を召使に言うと有名な王様でした。
「我が国一美しいラウラ姫。お前はガッタールの王子と婚礼の儀を交わすのだ。」
「婚礼の儀?お父様、それは一体なんでしょう。」
「結婚をするということだ!母上と私のように一生一緒に暮らす儀式だよ。」
蓄えたひげをふさふさと触りながらランストン王は言いました。
婚礼の儀、結婚なんてまだ私には早いわ!
お父様はどうしてそんなことを言うのかしら。
そうラウラ姫は考えていると、仲のいい侍女セーニャが廊下の先を歩いておりました。
「セーニャ!こっちへきて!」
父の言葉の意味が分かったようなわからないような気がしたラウラ姫はセーニャに聞きました。
「お父様がガッタールの王子と婚礼の儀を交わすのだ、なんていうの。
まだ私はそういう一生一緒にいる人なんてきめられっこないのにどうしてお父様はそんなことをいうのかしら。」
セーニャはすこし困った様子で答えました。
「姫様。・・・・王様は国の一番上に立つお方です。そのようなお方は国の為に生きることを第一とします。
姫様をガッタールに嫁がせて友好な関係を持つことが目的なのでしょう。ガッタールは我が国よりもはるかに大きな帝国にございますから。」
自室で話していると、バタンとおおきな音を立ててジェラルムが入ってきた。
「まあ!なんてお話をされてるのかしら!セーニャ、貴女の仕事はもう終わったの?!
お嬢様にそんな嘘を話すんじゃありません!」
「ジェラルム様・・・!!も、申し訳ございません…!」
ジェラルムは侍女に恐れられているトップの召使で、今年で三十代を終える。
しっとりとしたベルベットのドレスを着て、栗色の髪を蝶を模った髪飾りをつけている。
やはり、そこにいる侍女とはすこし違う雰囲気さえ感じる。
「ジェラルム!セーニャに聞いたのは私よ!叱らないで!」
紅茶のセットがのったテーブルはラウラの手のひらに揺らされた。
「ですがお嬢様、セーニャが申しておりますことは嘘以外の何ものでもございません。
王は、お嬢様の幸せを祈り、ガッタールの王子の評判がたいそういいことを聞きつけ、そのような運びにするとおっしゃているのです。」
「そうなの・・・。」
まだ十歳になったばかりのラウラには城の中が全てであり、侍女や貴族の関係者としか話をしたことがなかった。
そのせいか、全てを鵜呑みにし自分の意見を持つということを知らなかったのだ。
そんなラウラ姫にも少し気になることがあった。
ガッタールの隣国である、パトスエルの王子『クリフ王子』を慕っているのだった。
クリフ王子は十二歳で、社交界では将来期待の王子で有名であった。
あんな素敵な髪色とブルーの眼をした人はみたことがない。
そうラウラ姫は密かに思っていたのである。
「セーニャ、ジェラルムありがとう。もう下がっていいわ。」
冷め切った紅茶を飲み干し、ひとりラウラは窓辺で考えていたのである。
クリフと一緒に暮らせたらどんなに素敵だろう…。
「失礼いたします。姫様、手紙にございます。」
誰だろう。ラウラはカップと手紙を交換し裏をみた。封蝋には「c」の刻印がされていた。
「パ・・・トスエル。クリフ王子からだわ!」
「親愛なる ラウラ姫
最近の月はとても綺麗で、先日お会いできた貴女を思わせます。
貴女の美しさは月のようにも明け方の星のようにも・・・
なんと例えられることでしょう。私には思いつきません。
来週の火曜日、ファルスの城下町にて花屋のとなりでバラを持っております。
貴女に あいたい
追伸、どのような容姿でも驚かれませんよう。
クリフ」
ラウラは飛び上がる気持ちでした。
クリフも、おなじ気持ちであったと歓喜したのです。
でも、国の姫が侍女や王に黙って城下町に出ることは許されません。
ラウラは考えました。
「そうだ!侍女に変装すればいいのよ!」
翌日、ラウラは侍女に用意されている服を纏い、髪を少し見出して城をでました。
『誰にもみつかってはいけないわ。』
ストールを巻きつけ、顔を伏せながら城下町へと急ぐのでした。