短編

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柚子side



「あー、どんどんチャッチャチャッチャと運んで下さいね。すぐ使う用事があるので」


いつにもなくやけに張り切った様子の仁野が、電気会社の社員達に次々と命令を出し、生徒会室になにやらゴチャゴチャとした機械を設置させている。
あっという間に機械に生徒会室が占領されていく。
………一応言っておくが、金持ち学校なだけあって、生徒会室は狭くはない。
むしろかなり広い方だと言ってもいいだろう。
それだけ機械の量が多いということだ。


「…………………おい仁野」
「どうかしましたか?柚子」
「どうかしましたかじゃないだろ、どうかしましたかじゃ。この機械達は何だ」
「水原 月夜を味方にするための作戦に使用する機械達ですが」
「……こんなに大量にか」
「こんなに大量にです」
「大体お前はこんなに大量の機械を使ってどんな作戦を実行する気なんだ」
「負かすんですよ」
「は?」
「水原 月夜をPC勝負で負かすんです」


コイツはバカか。


「お前……な、分かってるのか?相手は、」
「分かってますよ。だからこっちは複数で勝負を挑むんじゃないですか」
「PCで複数も何もないだろう」
「PC同士をリンクさせて、違う人間に違うPCで同じ作業を手伝って貰えばいいじゃないですか」
「そう口で言うほど簡単なもんじゃないだろうが」
「大丈夫、安心してください。オレは昔から、機械類は得意だったんですよ」


嬉々としてそう説明してくる仁野に軽いため息を着く。
そんなに上手くいくわけないじゃないか、と。


「大体、複数でっつったって俺は手伝うつもりは更々ないぞ」
「もちろんです。きちんと、そういうことのプロフェッショナルに協力してもらいますから。あと、会計の御堂(ミドウ)君に」


確かに生徒会会計である御堂 翔琉(ミドウ カケル)は、親がIT関連の会社を経営しているということもあり、PCには強い。
それは納得だけれど、その道のプロフェッショナルって………まさか、な?
嫌な予感しかしないんだが。


「仁野。もしかしてそれ、親のコネってやつか」
「そうですよ?親のコネなめないでください。お金はこういうときの為にあるんです。ならフル活用しなくちゃもったいないでしょうが」
「………」


度々思うが、コイツの感覚は絶対にどこか可笑しい。


トントン


ドアをノックする音が響いた。


「どうぞ?」


ドアが開いて、銀髪に紺の瞳の青年が入ってきた。
御堂だ。
御堂は入ってくるなり部屋の中を見て、楽しそうに、ニンマリと笑った。


「良い機材だねぇ。俺、ゾクゾクしちゃう。ね、そう思わない?羊(ヒツジ)ちゃん」
「確かに良い機材だな。だが、いい加減にその呼び方を改めろ。非常に不愉快だ。死にたいのなら話は別だが」


御堂に呼ばれてから部屋に入ってきた青年は、御堂の呼び方にそう返す。
こいつの名前は、御堂 芽生(ミドウ メイ)。
親の再婚で出来た、御堂の兄だ。
ちなみに芽生は俺のクラスメイトでもある。


「まぁまぁ羊ちゃん、別にいいじゃない。それよりスギくん、今日は俺と羊ちゃんの二人で参加させてもらうよん?いいよね??」
「あ、はい。構いませんよ。むしろ初めからお二人に参加していただくつもりでしたし」
「あっそ?なら良かった。ねー、羊ちゃん♪」
「………黙れ」


ケラケラケラと楽しそうな御堂の笑い声が響く。
人を小馬鹿にしたような笑い方。
相変わらず嫌な笑い方をする奴だな。
俺ですら嫌なんだから、笑われている当の本人である芽生は相当苛ついているんだろう。
その証拠に芽生の顔はあからさまに不機嫌極まりないものだった。
つい見かねた俺はこっそりと芽生に話しかけた。


「大丈夫か、芽生」
「大丈夫なわけないだろう。不機嫌極まりないな」
「そんなんでよく御堂………翔琉と一緒に居られるな」
「別に無理をしなくともアイツのことは御堂で構わない。そもそも俺はアイツと一緒に居たいと思ったことは微塵もない。アイツが勝手にへばりついてくるだけだ。そんなことくらい容易に考えつくだろう」
「まぁお前の不機嫌具合を見てたら、な」
「アイツの側にいるなんぞ御免だが、今回ばかりは仕方がない。アイツの実力だけは認めているからな」
「技術を盗むってとこか?」
「そんなところだな」


とりあえず作業だけはキチンとしてくれるようだが、それにしても仲の悪い二人が一緒に居るのは果てしなく危険がある。
前途多難な作業に、俺は早くもため息をついた。









「さぁ!これで機械配置もばっちりです。あとはハッカーさんを何人か呼んであるんで、その人達が揃えばもう完璧ですね」


ようやく終わった長い機械準備に、多少の安堵と果てしなく大きな不安が入り交じる。


「そういえば杉浦。今日は水原をPCで負けさせるという話だが、何か策はあるのか?」
「?いいえ、ないですよ。特に」
「………それは本気で言っているのか」
「本気ですけど?」
「……………」


……………いや、やっぱ不安だ。
激しく不安しか感じない。
恐らくそれは芽生も同じだろう。


「クスクスクス…………アハハハハハハハハ」


その仁野と芽生のやりとりを見ていた御堂が笑いを堪えきれずに、盛大に笑い出す。
……だがここは笑う場面なのか?
コイツの感性はいまいちよく分からん。


「いやー最高だよスギくん!!羊ちゃんにフジ子ちゃんもさ、そう思わない?」
「ちょっとまて御堂、誰がフジ子ちゃんなんだ?」
「え?フジ子ちゃんったら藤原のフジ子ちゃん………会長しかいないじゃぁん」
「やめろ即刻やめろ」
「なんなのよフジ子ちゃん馬鹿にすんな!」
「いやいやいやお前こそ俺を馬鹿にすんなよ、俺一応会長だからね!?会長を馬鹿にする役員が何処にいるんだよ!」
「…………………フッ。ふーじっこちゃんってさ、、おばかさんなの?」
「御堂コノヤロォオオオオ」


ぶち殺す。
まじ殺す。
跡形もなく消す。
かっ消すぜ、まじ。
そうブツブツと呟き続ける俺の肩に芽生が優しく手を置いた。
そして微かに笑みを浮かべる。


「諦めろ、藤原」
「…………止めてくれるな芽生。俺は、俺はァアアアアアア」
「アイツに手を出した瞬間、かっ消されるのはお前の方だと思うがな」
「…………………諦めます」
「うむ、賢明な判断だな」


御堂 翔琉。
噂では1人で数十人を相手にして全員を病院送りにしたとらしい。
あくまで噂だが、火のない所に煙はたたない。
関わらない方がいいに決まってる。


「ま、何はともあれ楽しくなりそうですね」


仁野が楽しそうに微笑んだ。
おい仁野。
言っておくがそう思っているのは、御堂とお前くらいだよコノヤロウ。






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