短編

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「さっ、ご飯できましたよ〜」


白いフリフリエプロンを付けた凪が、いくつかの食器を運んでくる。
え?コレなんて新婚プレイ??
というかプレイとかじゃなくてもはや本当に新婚さんな雰囲気だよ、コレ。
新妻じゃないかよ。
しかも純白のフリフリエプロンとか!
フリフリエプロンとか!!(大切なことなので二度言いました)


「な、何か良いことでもあったのかよ?」


白々しく聞いてみる。


「あなたのお陰で理事長様に誉められました!初めは大嫌いと思ったけど、今は大好きです」
「…………教室であんなに怒ってたくせに?」
「あんなの、理事長様に誉められることと天秤に掛けたら軽いもんですよ」
「…………………単純だな」
「はい。でも、気にしてません」


凪は笑顔でそう返すと、俺に箸を勧めてきた。
真面目そうな凪らしい和風を中心とした料理の数々。
肉じゃがや煮物など、あくまで家庭的なものばかりだが、とても色合いがよく美味しそうに見える。
高校に入ってからは寮暮らしの自炊で、自分以外の人間が作った料理を口にするのは、本当に久しぶりだった。


「いただきます」


両手を合わせてそう言った後、小皿に一番手前にあった高野豆腐の煮物を取って、口にする。
独特の食感と、よく染み込んだダシの味。
我が家の味とはまた違うが、これはこれで美味しかった。
これが凪の家の料理の味なのかと思うと、また更に嬉しく感じられた。


「……………お口に合いませんでしたか?」


料理を口にしても黙っている俺を見て、凪は不安気な表情を浮かべた。
心配そうに覗き込んでくる顔が、また可愛い。
身長差的に、ちょうどよく上目遣いなのだ。


「………………いや、旨かった」


赤くなった顔を見られないようにと、とっさに顔を凪から逸らしながら、ポツリと呟くように言った。
そうしたら凪が「よかった!」なんて満面の笑みで言うもんだから、鼻血を吹くかと、正直心配になった。




_______




次の日の午後6時頃、俺は放送で、とある部屋にまで呼び出された。
用件は昨日のことだろう。
が、俺を呼び出したのは日下 誉ではなくて、そのルームメイトの教師だった。
名前は確か、結城 穣(ユウキ ミノル)だったと思う。
記憶力が良い方ではないけれど、俺のクラスの担任の笹崖 外夏(ササガケ ウイカ)と仲が良いから、辛うじて名前は覚えているといった感じだ。


「お前さ、なに考えてんの」


俺の顔を見るなり開口一番にそう言った結城は、いかにも面倒くさいというのを全身で表現をしていた。
面倒なら関わらなきゃいいのにな。


「今日さ、凪がオレんとこに来たんだよね。誉の心配してたわ」
「………」
「誉は誉でイライラ度MAXで、ウジウジウジウジうるせーし、態度はでけーし、しつけーしよ」
「………何がいいてぇんだよ?」
「ようするに、全部お前のせいだってこと。お前が誉への当て付けに凪にキスなんかしたからだ。ハッキリしろよ、男だろ?」
「最初っからハッキリしてんだろーが。俺は日下が嫌いだ」
「だーかーらーっ!そういことじゃねぇんだわ。オレが聞きたいのは、お前が凪を好きかってこと」


イライラしたのか、頭を左手で掻き回すと、右手でスーツのポケットから煙草を取り出し、ライターで火をつける。


「………校内は禁煙だろーが、この駄目教師………」
「いんだよ、だってほら、オレイケメン新米教師だから。みんな苦笑いで許してくれるって」
「………きっと、笹崖のやつは許さねーと思うぞ?」
「あー……うん。そだな、外夏は怒りそうだ。つーか見つかった瞬間、また殴られるっつーの。………………………ってオレのことはどーでもいーんだって。それよりお前だ、柳瀬」
「自分のことすらもあやふやな教師に説教されたくねーよ。そういうアンタこそ、笹崖のやつに惚れてるんじゃねぇの?」


してやったりと笑みを浮かべながら、そう言葉を返すと、結城は驚いたように目を見開いてから、困ったような表情で笑っていた。


「あ?やっぱ分かっちまうかー……。うん、俺は好きだぜ、外夏が。何年も前からな。にしても、お前みたいな青二才が気づくくれーだから、よっぽど分かりやすいんだな。んじゃ、それでも気づかない外夏のやつはよっぽど鈍感ってこったな」
「…………だったらさっさと告っちまえよ。そしたらいくら笹崖が鈍感っつっても分かるだろ」
「いんだよ、別に。アイツは好きなやつが居るみてーだし。なら俺は、外夏が幸せになってくれるだけで十分なんだよな、うん」


叶わねぇなぁ……と思った。
今まで散々大人を馬鹿にしてきたけれど、改めて自分の幼稚さを思いしる。
自分の幸せより、自分の大切な人の幸せを願う。
きっと俺にはできないだろう。
そう思う。
まだまだガキなんだ、俺は。


「って、なんかわりぃな。話脱線しちまった。要するに、他人に迷惑かけんなって話だ。誉のやつは本気で凪が大切なんだ。それが恋愛感情か家族愛かなんて、あいつの愛は歪すぎてわかんねぇけどさ。だからキチンと、けじめつけとけよ」


以上!
そう言って勢いよくイスから立ち上がった結城は、俺に向かって鍵を投げてよこした。
カシャン、と音を立てて、丁度よく掌に鍵が収まる。


「ナーイキャッ!それ此処の鍵だから、ついでに閉めといて」
「閉めたあと、鍵はどーすんだよ」
「あとで部屋まで返しにこいよ」


腹が立つくらいに、ムカつく大人だった。
アイツの言う通りに動くのは非常に酌だったけれど、まぁ。
柚真のやつへの気持ちをハッキリさせとくか。
そう思った、とある日の放課後だった。






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ミノはヘタレ。
余裕ある大人に見えるけれど、内心は余裕がまるでないヘタレ。
でも、紫音は更にヘタレWw
ヘタレが多いな
 

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