短編

□愛に愛持つ
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とある少年の日記。







4月30日
気に入らない奴と遭遇。
端から見たら優等生。
うっぜ。
いや、会話したことはねぇけど。
ああいった感じの奴は大抵ウザい。


5月03日
理事長室に呼び出された。
気に入らない教師を殴るのがそんなに悪いのかよ?
先に見下した態度で喧嘩売ってきたのはアイツだ。
一週間の謹慎で済むだけありがたいと思え?ふざけんな。


5月04日
謹慎一日目。
部屋に例の優等生が訪ねてきた。
何しに来たのかと思えば、理事長からの伝言だけだった。
なんだ、コイツ。
理事長のペットかよ、あほくせぇ。


5月05日
夜、優等生がまた訪ねてきた。
…………荷物を持って。
謹慎中、部屋に居るか見張るのに同室にされたらしい。
………………………
…………………………………




「ってふざけんじゃねぇっ!とっとと帰れや、このクソ優等生が!!」


取り敢えず飄々とした様子でリビングで、持ち込んだリュックサックの中身を確認しているコイツに俺は叫んだ。
するとコイツは帰ろうとするどころか、普通の奴ならビビるはずの俺の剣幕にも動じずにポンッと手を打った。


「あ、自己紹介がまだでしたよね。自分は凪 柚真(ナギ ユマ)と申します。宜しくお願い致しますね」
「そういうことじゃなくてっ!帰れつってんの」
「帰れません。今日から此所が自分の部屋でもありますので。そもそも自業自得。理事長様を怒らせるからいけないんですよ?柳瀬 紫音(ヤナセ シオン)くん」


優等生…………もとい凪は本当に此所に居座る気らしく、次々とリュックサックの物を出していく。
その間中も、器用なことに口は止めない。


「不良のヘッドでしたっけ?ヘッドだかヘッドホンだか知りませんけどね、理事長様に迷惑を掛けるのは止めてくださいね。自分の仕事が増えますから。仕事が増えたら増えた分だけ理事長様のお側に居られる時間が減るので」


よく回るお口だこと。
そんな悪態をついてやりたいくらいに凪はよく喋る奴で、その内容のほとんどが理事長の素晴らしさ。
残ったあと少しが俺への嫌み。
コイツが無口だと思ってたころの俺の勘違いを正してやりたい。


「帰れ!今すぐだ!!」
「アナタ…………しつこいです。しつこい男は嫌われますよ?その点、理事長様は素敵です……………」
「お前こそしつこいわ!理事長の自慢話なんざ聞き飽きたっつーの!!そして残念でした、この部屋は他の部屋みてーに二人部屋じゃねぇの。部屋はリビングと俺の部屋だけだし、ベッドは1つしかねぇ!残念だったな」


そう鼻で笑うと、ものすごく残念なモノを見るような目で見られた。
え?何、その目。
地味に傷つくんだけど。
凪は言葉にせず、俺の真後ろにあるソファーを指差した。
元から部屋にあったお高い私立校らしい、お高いソファー。
もちろん、物凄くふっかふか。
次に、凪は自分の手元のタオルケットを指差す。


「………………え、なにお前。もしかしてリビングのソファーで寝るとか言い出すつもり?」


またも、返事はない。
無言でタオルケットを片手に、俺の後ろのソファーに横になる。


パチッ。


突然リモコン式の部屋の明かりが消えた。


「お休みなさい」


そのあとに続く凪の声。
あぁ、マジムカつくわ、コイツ。








††††††††††










次の日の朝、俺は携帯の着信音で目が覚めた。
【トゥルルルルルル】とかいう至ってシンプルでありきたりな着信音に、少しだけ殺意を抱く。
目は瞑ったまま手探りで枕の下の携帯を探り当て、それを耳に当てる。


「……………………もしもし」
『ギャハハハハハハハハハハッ!!』
「!!!?」


電話に出た途端に響く、大音量の笑い声に耳の奥でキーンという耳鳴りが聞こえる。
……………おかげですっかり目が覚めた。


『へっろぉーん♪しっおぉーん!』
「……………あぁ。はよ、山崎弟」
『お前さぁー、日下の奴を殴ったんだってぇ〜?“あの”日下 誉を!』
「ん?あぁ」


上半身を軽く起こしてベッドの上で胡座をかく。
そして欠伸を噛み殺しつつ、携帯を持っていない右手で伸びをする。


『いや〜俺、ほんっと紫音大好きだわ』
「別に嬉しくねぇよ」


携帯を左手に、右手でボサボサに跳ねまくる髪を軽く押さえつつ寝着のTシャツ短パンのまま部屋を出て、いつものようにひとまずリビングのソファーにダイビング。
同時に聞こえる、「痛っ!!」という声。
……………………ん?
恐る恐る下を見れば、タオルケットから顔を出す黒髪の少年。
……………………………凪、柚真。
居たの忘れてた。


『知ってた?紫音。その日下 誉ってね、理事長の息子なんだわ。そして優等生こと凪 柚真の………………義理のお兄さんなんだよ』
「え………………あ、マジ?」
『ちなみに凪って怒らせると怖いらしいから、逃げなよー?確か空手かなんかの全国優勝者だから』


俺は不機嫌丸出しの表情で下から見上げてくる凪を見つめた。
そんなことは露知らず、呑気な山崎弟の声が耳に響く。
『でも仮にも紫音も不良のヘッドなんだから大丈夫だよね?』
そんなことない、そんなことない!
無理無理無理、マジ無理。
全国優勝者に敵う訳ねぇ!!!
ヤバい、変な汗出てきた。


「それ、、、山崎弟よ。先に言って欲しk((…………ぶへらっ!」


言い切る前に吹っ飛ばされる俺の身体……………ってあれ?
痛くねぇ。
凪はまだ寝惚けていたらしく、物凄く痛くも痒くもない緩やかすぎるパンチをしかも空中に放ったあと、そのまま再び眠りについた。
助かった。
マジ助かった。


『なんだか情けないね、不良のヘッド』
「……………うるせぇボケ」
『実はヘタレ?巨乳好きのヘタレ?』
「黙れボケ」


凪の上から退いた俺はひとまず自室へと退散した。
仕方ないので、リビングのフカフカソファーの代わりに自室の固いベッドの上にダイビングしてみる。
………………結構痛かった。


『そんなんで凪君と同室生活やってけるワケ?』
「……………つかお前、何で知ってんだよ」
『学校中の噂だよ?優等生凪と不良柳瀬が同室だ〜、って』
「……………………………」
『そんな紫音君に、俺が良い情報をあげよう』
「何だ?つーかお前、真面目に勉強しろよ。今授業中だろ。停学の俺はいいけどよ」
『良いんだよ。今は休み時間だから。あと一分で授業開始。んでね?その情報っていうのは、なぁーんと!日下ちゃんは凪君を溺愛してるのでぅぇーすっ♪』
「…………いや、だから?」
『だからぁ、凪君を落とせば日下には大ダメージ。君が嫌ってた日下に、だよ?』


……………その手があったか!


「今、生まれて初めてお前に感謝したわ、山崎弟」
『やっぱ馬鹿だろお前。つーかちゃんとした名前があるっつーんだよ』
「じゃあな、山崎弟」
『ちょ、紫音ふざけんな。せめて名前ぐらいは出させてよ、俺の名前は山崎 s((』


山崎弟が自分の名前を言い切るより早く、俺は電話を切った。
…………もちろん、嫌がらせだ。
感謝はしているが、普段の恨みの方が割合が大きい。
ドンマイ、山崎弟。
それより、そうと決まったら凪にさっそくアピールだろ!
俺は自室を飛び出した。
もちろん飛び出したという表現から予想はつくが、派手な音を立てて。


「…………うっせーんだよ、死ねやボケ」


……………ソファーから聞こえる、地の底から響いてくるような低い声。
俺がドアを開ける音で目を覚ましたらしい凪は至極不機嫌そうな顔をして、ソファーから身体を起こす。
そして至極慣れた動作で自分のズボンのポケットから煙草とライターを取り出し、火につけた。


「何見てんだよ、このクソヤロー」
「え?あ、、すみません」


咄嗟に凪に背を向ける。
え?つーかコレ誰よ。
怖いんだけど、めっさ怖いんだけど!
恐る恐る、もう一度だけ振りかえる。
と、明らかに不良以外の何者でもないような目をした凪と目が合う。
そして物凄い勢いで再び顔を反らす俺。
なに、この子!
真面目な優等生じゃなかったのか!?


「……………今何時?」
「へ?」
「今何時?って聞いてんの」
「……………10時40分デス」


少し片言気味にそう返すと凪は眉間に右手の人差し指と中指を当てると、目のマッサージを始める。
それを数分続けてから、静かに息を吐く。


「……………あーなんかすみませんでした。自分、寝起き悪いんですよね。驚きましたか?」
「……かなりな。お前、優等生のくせして煙草吸うんかよ?」
「………………ん。まぁ………」


沈黙。沈黙。沈黙。
凪が普段のような敬語状態に戻ったからか、それとも俺が煙草の話に触れたからか気まずい雰囲気が漂う。
そんな空気の中で、凪がポツリと呟くように言った。


「…………………理事長様には内緒にしてくださいね」
「何をだよ」
「煙草………吸ってたこと。内緒ですからね」
「何でだよ」
「……………………………………理事長様に怒られちゃいます」


んなん自業自得じゃねーかよ。
つかそんなにバレたくないなら俺の前で堂々と吸うな!
こんな感じに文句を1つ2つ言おうとして寸前で踏みとどまる。
そして先ほどの山崎弟との会話を思い出す。


「よし。じゃああれだ!俺の恋人になれ。そしたら黙っててやるから」
「………………」
「…………無視?」


凪は無言で火をつけたまま口には加えなかった左手の煙草を携帯灰皿へと押し付ける。
そして自分のバッグからメモ帳とボールペンを取り出すと文字を書き込んでいく。


「反省の色、ゼロなようですね」
「ん?」
「理事長様に頼まれたんです。煙草を吸う振りをしてくれって」
「………」
「そしたら案の定、恐喝なんて………駄目ですよ?」
「………………もしかして騙された?俺」
「もしかしなくても完璧に騙されてましたね、貴方」


…………………………酷くねーか?
いくら相手が俺みたいな不良だとしてもよ、いきなり勝手に人の部屋入り込んできて監視を始めた上に騙すとかひでーだろ、明らかに。
マジ、キレてもいいですか?
もはや空手全国優勝とか関係ねぇよ。
ムカつくもんはムカつくんだよ!


「これだから不良は。ほんっとうに迷惑な存在ですよね」


プチン。
理性のキレる音がした。
俺は無言で凪の細い腕を引っ掴む。
凪の嫌がる声が聞こえたが無視だ、無視!
二人とも寝着のまま強制的に凪を引っ張って部屋から出る。
授業中だからか、廊下は静まり返っていた。


「…………どこに連れてく気なんですか」
「教室」
「はい?貴方何を考えて……」
「着いた」


俺は授業中の自分の教室の前の扉を勢いよく開ける。
周りからのアイツ謹慎じゃなかったのかよ?
という声も全部無視して、予想通り教卓に立っていた日下 誉を見つめた。


「何をしてるの?謹慎中なハズだと思うんだけど」


不機嫌そうにそう聞いてくる日下の頬には湿布が貼られている。
…………少し前に俺が殴った痕だ。
相変わらず偉そうな日下の前で俺は無理矢理凪を引き寄せて、その柔らかそうなふっくらとした唇に自分の唇を重ねた。














___________





これも昔に下書きしていたものです。
ようやくUPできました……。
これ、まだあと2.3続く予定です。
涙の数の物語とか、感情と、微妙にリンクしてます。
 

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