短編

□涙の数の物語
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『ウイカはミノに言いました。
涙の数だけ物語は存在するんだよ。
だから沢山沢山泣くといい。
その分だけの物語が生まれ、希望が継続するのだから。
そしてウイカはミノの額にキスをしました。
いつまでもいつまでも、僕が側にいるからね。大好きなミノ』


教師になるのが夢だった。
否、教師になって初恋の人に会うのが夢だった。
なのに何年かぶりに会った初恋の人は……………随分昔とは変わってしまっていた。



「おい、結城!結城!!」




「……………………っはい!?」


「テメェ、、、しっかり話聞いてろっつーんだよ………………」


苛々とした表情で凄む彼は、初恋の人こと笹崖 外夏(ササガケ ウイカ)。
久しぶりに会った彼は、昔の優しさ・可愛さ・泣き虫は何処へやら。
すっかりと俺様なホスト教師なんかに成り下がっていた。
彼のことだから、きっと優しくて生徒にいつでも誠実な教師になるんだとばかり思っていた。
そう信じて疑わなかった、俺が居た。


「悪い、聞いてなかった。もういっぺん言って?」
「っめぇ!先輩教師には敬語を使いやがれ、敬語を!!『すみませんでした、笹崖先生。聞き逃してしまったので、もう一度話していただけますか?』だろ!」
「スミマセンデシタ、笹崖先生。聞キ逃シテシマッタノデ、モウ一度話シテイタダケマスカ?」
「結城………マジ殺す」


額に青筋なんて浮かべちゃって、可愛くないでやんの。
小さいころは可愛かったのによ。
昔は俺のことを結城 稔(ユウキ ミノル)だからミノ!なんて呼んじゃってさ。
なのに今じゃあ、「結城」だぜ?
可愛くない。


「センセー、笹崖センセー?」
「あ?どしたよ?」
「今夜、お願いしてもいいですか……?」


頬を真っ赤に染めた生徒が、熱っぽい視線でウイカを見つめる。
何より1番面白くないのが、この生徒とウイカのやり取り。


「ん?あぁ、いいぜ」
「はいっ!じゃあ今夜、先生の部屋で」
「あぁ」


随分お盛んなこって。
毎日毎日毎日毎日毎日毎日………………………………。
ウイカ、あんたと同じ部屋の俺の身にもなれっつーの。
あぁ、苛々する。




††††††††††




それが毎日、一年間続いた。
よくもまぁ、そんだけ我慢できたもんだよ、俺。
そして、ようやく教師の寮の部屋替え。
今度同じ部屋になったのは『日下 誉(クサカ ホマレ)』とかいう理事長の息子。
嫌みと理屈を捏ね回す嫌な奴と最初は思っていたけど、話してみると意外にいい奴だった。


「ミノちゃん、お茶」


態度がでかいことを除けば。


「ミーノーちゃーんっ!おーちゃぁぁぁぁぁぁっ」


しかも、案外しつこい。
苛々している時は尚更、そのしつこさに磨きが掛かる。
また何かあったんだろうか?
心優しい俺は仕方なくキッチンでお茶を沸かすと、それをカップに移して誉に渡す。


「また何かあったのか?」
「新入生!」
「は?」
「だから新入生!」
「その新入生がどうしたんだよ?」
「1人さ〜むっちゃムカつく奴が居るんだよね」
「誰よ」
「柳瀬 紫音(ヤナセ シオン)」


よく、聞き覚えのある生徒だった。
というか俺のクラスの生徒じゃねぇか。
うちのクラス1の問題児、柳瀬 紫音。
キレやすくて暴力沙汰ばっか起こすくせにやけに人気の高い、面倒なタイプの生徒だ。


「柳瀬がどうしたって?」
「アイツ、オレの柚真にキスしやがったのっ!しかもオレの目の前で…………ありえない」


こちらもよく聞く生徒の名前だ。
凪 柚真(ナギ ユマ)。
誉の義理の弟であり、誉が歪な恋愛感情を向ける相手である。
品行方正、理事長の息子。
顔よし、性格よし、成績よし、運動神経よし。
そんな学生の鏡のような生徒である。


「だってよ、柳瀬のやつは凪に惚れてんだろ?凪も嫌がってねーみてーだし。案外うまくいくんじゃねーの?あの二人」
「そういうミノちゃんはどうなのさっ!?あーあー、笹崖先生って毎日美少年とお盛んだからね。デキてるんじゃなーいの?」
「俺はそれでもいーんだよ、ウイカが幸せなら」
「…………………なんかミノちゃんって唯の良い奴だよね」
「だろ?」
「うん」


それで良いと思ってた。
本当に、それで良いと思ってた。






†††††††††






「じゃあこれで今日の授業は終わりな。きちんと明日、レポートを提出しろよ」


いつも通りに特に問題はないまま、最後の六時間目の授業を終了する。
もう授業はないし、此処は自分が受け持つクラスなので移動する必要もない。
俺はイスに座ったまま、ゆっくりと後ろに手を伸ばした。
疲れとストレスで凝り固まった身体が解れていくのを感じる。
その感覚をゆったりと目を閉じて味わっていると、不意に固い何かで頭を叩かれる。
慌てて目を開けると、そこには日誌を持ったウイカが居た。


「よ、結城センセ」
「なんだよ、ウイカ」
「てめ、笹崖先生だろうが、ボケ。…………………まぁ、いいや。今日お前、俺の部屋来い。俺、1人部屋だから」
「は?ちょ………」
「それだけ」


じゃあな。
それだけ言うと、俺が断る暇もなくウイカは立ち去ってしまった。
相変わらずの俺様加減だ。
でも、やっぱり好きな人に誘われたのが嬉しくて。
ついつい俺は頬を緩ませた。








†††††††††††









「遅くなっちまった、アイツ、怒ってっかな?」


あれからこんな日に限って多くの仕事を頼まれて、気がつけば夜の11時。
完璧に残業だ。


トントン。


怒鳴られるのを覚悟でドアを優しく叩いてみる。
反応はない。
もう、寝ちまったのかな?
いや、約束に関しては厳しいウイカのことだ。
何かあったんかな?
心配になってもう一度ドアを、今度は若干ドアを強めに叩いてみる。
すると、鍵が開いていたらしく自然にドアが開く。
悪いとは思いつつも勝手に中に入ると、そこには1人先にワインを飲みながら頬を赤く染めたウイカが居た。


「よ、おせーぞ。おら、とっとと座れよ。久しぶりに飲もーぜ。良いツマミ貰ったんだよ」


………………そう言ってケラケラと笑うウイカは酷く色っぽかった。
いや、男にそれを使うのは可笑しいのかもしんねぇけど。


「ったく、お前、もうすっかり出来上がってんじゃねーかよ」
「ん。まだ大丈夫」
「マジかよ?」
「んー、大マジ〜」


そう言って、またケラケラと笑う。


「お前来んの待ってたんだからさ、とっととツマミ食おーぜ。ブルーチーズ。高いやつだぜ、きっと」
「自分で買えよな。つか誰に貰ったんだよ、これ」


ウイカの隣のソファーに腰をかけつつ、そう聞くとウイカはまた笑う。
こいつ笑い上戸なのかな。


「ん〜山崎からもらった。いっつも俺んとこに来る奴」


正直、ムッとした。
ようするにこいつは自分の恋人からのプレゼントを俺に食わせ、ノロケ話でもしたかったんだろう。


「へぇ………でも俺、チーズ嫌いなの。悪いな。お前がせっかく恋人からもらったプレゼントを分けてくれてんのに」


先手必勝。
ノロケは聞きたくないから。


「あ?お前何言ってんの?」


皿に盛り付けたチーズを食いまくっていたウイカの手が止まる。


「恋人じゃないんだ。じゃ、セフレかな。どっちにせよ気をつけろよな」


自然に語尾がキツくなる。
当のウイカは目を大きく見開くと、顔を真っ赤に染めた。
まるでボンッとかいう効果音が似合いそうなくらい。
ウイカはそんな顔を必死に両手で隠している。
は?…………え?


「お、おおお、おま、…………セ、セフレとか、そんな、そんなセリフ使っちゃ駄目だろ!は、恥ずかしいやつだなぁ」
「え?なに今さら恥ずかしがってんだよ。今まで何度も部屋に生徒呼んでたくせに」
「あぁ、あれはびっくりだよな。授業外でも勉強を教えてほしいなんていう生徒が居るなんてよ」


……………あれ?
何だか違う。
もしかしてウイカって、
ものすごく…………


ものすごく純粋な奴なんじゃ………




「なぁウイカ、お前初めてセックスしたのいつ?」
「セ、セ!?…………そ、そんなもんは、やらねぇよっ」
「は?じゃあお前童貞なわけ!?」
「どて…………って…!/////」


ウイカは更に顔を赤くして、近くにあったクッションを両手で抱き締めて顔を埋めた。
耳まで赤い。


「お前って…………恥ずかしいやつだな、結城」
「いや、そんぐらいで真っ赤になってるお前の方が恥ずかしいっつーの」


俺って恥ずかしいやつなのか…………?
クッションに顔を埋めながら自問自答しているウイカが可愛くて。
我慢できなくて、近くにあったワインボトルに直接口を付けて飲み干すと、そのままウイカに口づけた。


「ん…………ふ、ぁっ」
「ウイカ……」


逃げようとする彼の頭を右手で押さえ付けて、引き寄せながら更に深い口づけを交わす。
段々と角度を変えながら、なるべくゆっくりと。
でも荒々しく。
しばらくすると息ができなくて苦しいのか、ウイカが空いた左手で俺の胸元を叩いた。
息継ぎの仕方も知らないのか。
仕方ない。
名残惜しげに唇を離すと、息苦しさに涙を溢し頬を赤く蒸気させたウイカが目に入った。


「ウイカ……………………」
「ゆう…………き?」
「優しくするからさ、駄目か?」


先ほどのキスで、すでにジーンズの中で存在を主張している息子を彼の足に当てながら、欲を煽るように耳朶に甘噛みをする。


「んっ………………ゆっ、、き……」
「違うだろ、ウイカ。昔みたいにミノって呼んでみろよ」


なぁ、と甘く耳元で囁きながら、薄いワイシャツの生地越しに胸元をそっと撫で回す。
元々感じやすい体質なのか酒のせいなのかは定かじゃないが、俺の指が小さな乳首を掠める度にビクンッと跳ねる腰。


「ミノ………………っや、」


限界だった。


「っ、ウイカッ!」


ウイカの同意もロクに確認しないまま、乱暴に彼のワイシャツを脱がす。
いくつかボタンの弾け跳んだそれを投げ捨てて、いささか乱暴にソファーに押し倒す。
好きだった。
ずっとこうしたかった。
でも、我慢はもうやめよう。
いいじゃないか、今なら言い訳になる。
酒のせいにしちまえばいい。
そうだ、俺がウイカを抱いてんのは酒のせい。
ただの間違いなんだ。
そう自分に言い聞かせて、俺はもう一度ウイカにキスをした。







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ずっと書きたかった、『感情』とかいう短編を書いた時の脇役、稔と名前すら出てこなくて一言しか喋っていない外夏の話。
まだ続きます。
ラブシーンはなんとかギリギリ回避(^_^;)
本当は書きたかったが、受験生がエロシーンをによによしつつ書くとかいう光景はあまりにもシュールすぎるので我慢しましたWw
このくらいなら、まだ許されるはずだ!←
そして外夏と稔が書き終わったら、誉と柚真と紫音のお話を書きたいです。
私にしては珍しすぐる固定CP……。
でも、意外にぷまい(^q^)
 

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