短編

□感情
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彩月野は相変わらずの無表情で、僕を見つめながらそう言った。
あー、もう、ちょっと待て。
意味わからないんだけど。
いきなり意味不明なこと言い出すし、いや、それは元からだったんだけど、くそ、もう意味わかんないっ!
とにかくワケわかんないからっ!


「臣はね、感情がないんだよね。いや、違うかなぁ。感情の大半が欠落してるんだ。生まれたときから。どっかおかしいんだよね」
「ちょ、ちょっと待って!それならいつもの『萌え〜』とかは何なの!?」
「あぁ。あれは姉さんがくれたファイルに書いてあったから。みんなが頬を赤くして、可愛いって言った子が居たときは、『萌え〜』って言えって。腐男子とかいうやつは、えぇっと、何だっけ?いわゆるBL系フラグとかいうやつに巻き込まれにくいからそうしなさいって」
「じゃああれ、全部演技なわけっ!?」
「うん。空っぽなものほど、たくさん入るって言うでしょ?」


僕は、生まれて初めて見た真性バカに向かってため息をついた。


「じゃあ、僕に今まで嘘ついてたってワケだ?」
「違うよ、嘘はついてない」
「でも、感情がないんでしょ?」
「そう。そのはずだったんだけど、蓮樹君のおかげで色んな感情が分かったよ、ありがとう」


嬉しい、でしょ?寂しい、でしょ?彩月野が指を折りながら、その数を数えていく。



「あとね!大好きって感情!臣は、蓮樹君のことが好きみたいだよ」


そう言うと彩月野は、今までの笑顔とは比べ物にならないくらい、可愛らしく、そして幸せそうに笑った。









(君がくれた)
『感情』
(そして幸せ)
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