短編

□雨を連れゆく
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俺らの人生という名の道は果てなく続き、長い長い水路を伝い、堕ちてゆく。
一度堕ちてしまったら、もう二度とは戻れない。
遠い昔にはぐれてしまった俺らの道は再び重なり、此処まで二人でやってきた。
それでも、その道はいとも簡単にあっさりと途絶えてしまった。
誰も俺らを留めることはしなかった。
否、できなかった。
辛くても、
悲しくても、
君と共に過ごす道を選んだのは俺。


「君が星野 空良?思ってたよりも普通だな」
「何とでも言え」
「ねぇ、それより、君のご主人様は来ないの?紀井 陽雄は??」
「紀井様は来ない。お前みたいな雑魚を相手にしてる暇はないからな」


明らかに相手を挑発する言葉。
相手の顔がしかめられ、周りの雰囲気が変わる。
あ、ヤバい。
直感的にそう感じた。
でも時は既に遅く、相手の拳が俺の身体にめり込む。
痛い、痛い、痛い、痛い痛い………
でも君の命令だから戦わなくちゃな。
勝たなきゃいけないよな、陽雄……。
共に歩んだ道は間違いじゃなかった。
共に違えた道は間違いじゃなかった。
それを証明するために、俺は勝たなくちゃいけない。
俺なんかのミスで、君の存在価値を落とすわけにはいかないから。
地面に叩きつけられた身体を何とか奮い立たせると、俺はナイフを相手に向けた。
こいつを殺すのが君の望みであり、命令。
君の命令は、絶対。


「だっさいね。雑魚相手に一発喰らっただけでヘトヘト?もうちょっと頑張ってよ、星野 空良」
「わ、かってる。煩いんだよ、お前」
「こんなんじゃ紀井の方もたかが知れてるんじゃない?」
「紀井様を馬鹿にするな!!!」


スピードを付けて、相手のテリトリー………懐に飛び込む。
そしてそのまま、ナイフを相手に深々と突き立てる予定だった。
けれどもその手はあっさりと相手によって止められてしまった上に、相手はその状態のままで俺の腕を右へと思いっきり捻った。
ゴキリという、嫌な音と共に訪れる激痛。
そして目の前に立つ敵。


「さようなら」







***************


陽雄side





透明に、


透明に、


交差してゆく。


交わる予定の無かった二つの道が。
浅い呼吸を繰り返す君の胸元に触れれば、指に伝わる、あまやかな鼓動。





透明に、



透明に、






君が溶けゆく。









雨に混じるように、




雨に流されてしまうかのように、




君の存在が薄くなってゆく。




透明な雨に混じる、ひとすじの朱色。
それは段々と広がっていき、君を包み込む。
それは唯一僕に残された君の名残。
だから僕は、泣かない。
今、目の前に居るのは僕の愛した人じゃない。
僕の愛した空良は、この関係になる時に別れを告げた。




だから、



だから、



だから、









悲しくなんてないハズなのに。
なんでこんなに心が痛いんだろう?
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