短編

□すべてが終わってしまう前に
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人の世は移り変わりが激しい。
だから、変わらないもの……永遠なんてものは存在しない。
それでも僕は君が望んだ“永遠”とやらを必死に実現しようとしていたんだよ。
でもどんなに僕が努力しても、変わらないものはないという言葉の中にはもちろん君の心も含められていて、もうどうにもならなかった。
本当は気付いていたんだ。
君の笑顔が最近、減ってしまった事に。
その代わりにため息や作り笑いが増えて、本当の君の姿が見えなくなってしまっていた。
それでも僕は気付かないふりをして、新しく来た転校生君の後ばかりを追いかけていた。
彼が僕の光なんだと思った。
でもそれは誤解だった。
僕はただ逃げていただけだったんだ。
………本当に大切な存在から、


「陽平、行こうぜ?早く早く!」
「うん、そうだね」


机に手をついて僕を誘ってくる転校生君。
そこそこ可愛い顔をしていて、自他共に認めているらしい。
でも、あのレベルじゃ大したことはない。
あの位の可愛い子なら、この学園には山ほどいるはずだ。
でも、恋に盲目なあいつらはそんなことも分からないらしい。
転校生君が一番可愛いんだと。
この存在を可愛いと言うならば、明らかに僕の恋人………輝石(キセキ)の方が可愛い。
いや、綺麗かな。
というか、なんで一般生徒の転校生君が生徒会室に居るのかな?
まぁ、もはやそんなことはどうでもいいんですけど。


「ほら陽平!いくら俺が可愛いからっていつまでも見惚れてないでさっさと行くぞってば!!」


転校生君は僕の右腕を掴むと椅子に座っていた僕を無理矢理立たせた。
いや、自分で自分のことを可愛いって言うのはどうなんだろう?
それに、僕は別に君に見惚れていたわけじゃない。
ちょっと前までは確かに彼に見惚れてしまっていたのかもしれないけど、今は違う。
自分の本心を知って初めて分かる矛盾。
それでも卑怯で弱虫の僕は今の状況を崩すのすら怖くて、いつも通りを装って転校生君に笑いかけた。
僕を引きずるようにして引っ張って連れて行かれながら、生徒会室を出る瞬間、少しだけ輝石と目が合った。
直ぐに逸らされる視線に、少なからずショックを受ける。


どこで僕は間違ってしまったんだろうか?
そんなのは考えるまでもない。
最初から僕だけが悪くて、一人で輝石に不信感や不安を抱いて、一人で勝手に勘違いして暴走しただけだ。
その頃を思い返しては後悔だけが浮かんでくる。
可能ならばその時の僕を殴り倒したい気分だ。



もし、



もしもの話。







時間が巻き戻せたのならば、
僕らはもっと違う結末を迎えられたのだろうか?


まだ別れたわけでもないのに、今のうちからそんな事を考える。


「何ボーッとしてんだよ?」
「あぁ、、、何でもないよ。ちょっと考え事をしていただけです」


気がつくと、そこは食堂でした。
こんな状況から、僕がどれだけ物思いにふけっていたかを容易に想像できる。
生徒会室から食堂までの距離を移動したのすら気がつかないくらいに。


「ふーん」


大して興味もなさげに、転校生君が相槌をする。
興味がないのなら初めから聞かないでくださいとでも言ってやりたいと思ったが、そんなことをしてしまったら転校生君との関係まで壊れてしまいそうで怖かった。
それでもこの関係ですらも、僕の想いの全てを無視して神様とやらはいつかは壊してしまうのだろう。
輝石。
僕のせいで、そう遠くない未来に僕らの関係は壊れてしまうんだろうね。
それなら、すべてが終わってしまう前に一つだけ聞かせてよ。
輝石、僕はどう変わればいいの?



なんてね。
そんなこと、僕には聞けない。
だから君は僕に愛想を尽かしたんだろうね。
今でも好きだよ、輝石………。
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