短編

□馬鹿だな、君は
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馬鹿だな、君は。
何を嘆いているのか。
それほどまでに恵まれているというのに。


馬鹿だな、君は。
何に怒っているのか。
それほどまでに思われていながら。


馬鹿だな、君は。
何を欲しているのか。
その小さな両手にこぼれんばかりの愛を抱えながら。


馬鹿だな、君は。
金色の君にそう語りかける。
『目は口ほどにものを言う』
声には出さす、瞳で語る。




「りゅーい?どうしたんだよ?」


どうしただって?
君のせいだよ、君の。


「別に」


こんなに恵まれているというのに理不尽な態度を取る君が近くにいるから。
僕の隣に居るから。


君のことが羨ましい。
羨ましくて羨ましくて羨ましくて羨ましくて、
それなのに綺麗な君が近くにいるから
醜い自分が浮き彫りになる。


「馬鹿だな、りゅーいは」


君の淡い桜色に染まった艶のある唇が言葉を紡ぐ。
そしてそのまま、唇の端がゆっくりと上がっていく。


「そして馬鹿だな、俺は」
「りゅーいは何をそんなに欲しているの?」
「愛がそんなに欲しい?」
「どうして?」
「こんなに、」
「こんなに俺が」






「愛してるのに」






僕が口を開く間もなく、君の形の良い唇が紡ぐ言葉の数々。



馬鹿だな、僕は。
自己という名の狭い世界なんかじゃなく、
広い世界で見渡せば、
こんなにも僕は愛されていたのに。


「りゅーい、愛してる」
「…………僕も」



『馬鹿だな、君は』
(それ以上何を望むのだろう)
 

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