せんよう

□サプライズ送別会
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「俺、転校することになった」

両部のその発言は、吉良達にとって、まさに、寝耳に水だった。

今日は金曜日。
放課後の部活も終わり、後輩達は先に部室に戻ってしまったあとの、幾分静かになった体育館。
体育館を共同で利用している柔道部の稽古の声が聞こえて来るそんな中、いつものように円座に座って他愛ない話をしていたときに突如として落とされた、それは不意の爆弾だった。

「えっ…転校、って…」
「いつ?!」

脳が理解することを拒否したのか、ただ目を丸くするだけの吉良の言葉を遮り、黛は身を乗り出した。

「まだはっきりは分からない。…けど、来月頭には、もう…」
「それって今月いっぱいかもってこと…?」
「あぁ。そうなれば、あと一週間ほどだな…」


力無く発せられた両部の言葉に、黛、吉良、結城は顔を見合わせた。




四人は、高校の同じ部活だった。
新入生の中で同じ部を志し、この剣道部に入部したのは四人だけだ。

剣道経験者で皆のまとめ役の両部、同じく経験者で寡黙な結城、いつまでも子供っぽさの抜けない吉良、そして紅一点の黛。
上級生達が何かと集まりの悪かったこの部において、一年生達だけで過ごした期間の長かった彼らは、自然と仲良くなっていた。

それは学年が一つ上がり、後輩達が入ってきてからも変わらず、四人は皆、一緒にこの学校を卒業していくものだと思っていた。

つい、先程までは。




「どこ?転校って、どこに引っ越すの?」

あきらかに困惑の表情を浮かべる黛に、両部は小さく返した。

「沖縄」
「へぇ、沖縄かぁ!いいなぁー!そういや修学旅行も沖縄だよなー」
「ちょっと吉良くん、なに呑気なこと言ってんの?!沖縄だよ?遠いんだよ?」

ばんばん、と己の足を叩き主張する黛。
黛に言われなくとも、そのことは吉良も十分理解していた。
ただ、ずっと一緒に居た仲間が急に居なくなってしまうというその実感のない事実に年甲斐もなく泣きそうになってしまって、茶化さずにはいられなかったのだ。


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