せんよう

□サプライズ送別会
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「でも、引っ越しのぎりぎりまで学校…来るだろ…?会える、よな…?」

不安そうな結城の声に、両部は少し笑った。

「おう、部活もみっちり出るよ」
「そりゃ勿論出てもらわなきゃ、指導者不足だからなー!」
「だからまた、吉良くんはそんなこと言って…!」
「なんだよ、じゃあ黛さんが両部の分まで後輩の稽古つけてやれよ?」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「ほら、黛も吉良も落ち着けって」

笑いながら二人をいなす両部を見て、結城もくすくすと笑みを浮かべる。
そんな日常の光景に、吉良は泣き出すまいと唇を噛み締めた。


吉良にとって、両部は高校で初めて出来た友人だった。
遠方から越して来て、慣れない土地で見知らぬ人だらけの高校に入学した吉良は、入学直後の剣道部の体験入部でクラスの違う両部と出会ったのだ。
違いに正反対とも言える性格ではあったが、面倒見の良い兄のような両部と、思考が小学生レベルの弟のような吉良は、なぜか馬が合うらしく、いつも一緒に居た。
のちに、同じく体験入部に居た人見知りの黛や、少し遅れて入部した結城と出会い、仲良くなっていったのだが、最初に仲良くなった両部の存在は吉良にとっては特別なものだった。




「じゃあ、お疲れ!」
「また、来週」
「またね」
「じゃ!」

学校の門を出て、それぞれの家の方向に帰る。
学校のすぐ近くに住む結城が家に向かい、両部が自転車で走り去ったのを確認してから、吉良は同じ方向に帰る黛に話掛けた。

「あのさ…」
「なに?」
「僕達で送別会やらない?両部の」
「送別会…?」
「ほんとはさ、僕両部と離れるの嫌だけどさ。まぁ、仕方ないじゃん?だからせめて…」
「そっか…送別会か……」

そう言ったきり、黙って歩く黛。
吉良は心配そうに横目で黛を見た。

「だめ、かな」
「ううん、だめじゃない!あたしもやりたかった!」

そう言うと、黛は勢いよく吉良を見た。


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