短い物語

□Is it you?
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委員会の後、横山君をみのりのところに導いたところで千尋はすぐに蓉子と合流し、二人で先に学校を後にした。


あれからみのりちゃんはうまくいったのだろうか。
上手くいってほしい。
けど、上手くいったらいったで、今まで三人セットでずっと仲良くしてきた分、その内の1人にもし彼氏ができたらそれもそれで寂しいかもね。置いていかれちゃうね


帰り道、2人はそんな話をしていた。


「そーいえばちーちゃんはさ、」


蓉子が口を開いた。

「あげたい人いるって言ってたじゃん。会えないって言ってたけど。その人の事今も好きなの?」


いきなり自分の話題に千尋はつまった。

その人、とは。
昨日自分が少しだけ話した彼の事を、ハクの事を指しているのだと千尋もすぐ気づいた。

蓉子は、あ、と付け加えた。


「ごめん順序が逆だったね。私聞いてよかった?」
「あ、うん。大丈夫」
「よかった、千尋ってだから好きな人とか出来ないのかなって思ってさー」
「好きな人…なのかな」


千尋はまた地面に視線を落とした。
まだ冷たい北西からの風に身を縮め、千尋はつま先ばかりを見つめて歩いていく。


「わかんないけど…」


びゅうと吹く風に耳がちりちりと痛んだ。
風の向こうで蓉子がまた何か言ったようだが、千尋の耳には入ってこなかった。





ずっと待っていた。
ハクが帰ってくるその時を。


『私もあとから必ず行く。』


そう約束したその時を、あの時から千尋はずっと待っていたのだった。

しかし今もまだ彼は現れない。




 多分。きっと、ハクにはもう会えない。


最近になって千尋は薄々そう感じ始めていた。


ハクが嘘をついたとは思えない。
でも、世の中にはきっとどうしようもないことというのもあるのだと思う。
ハクもきっとそんなどうしようもない事のひとつに帰りを阻まれているのかもしれない。

そう思い、今ではあのトンネルからすっかり足も遠のいた。


まだ物事がよく理解できていなかった時分は何も考えずにただ待っていればよかった。
でも今は、様々なことが次第に理解できるようになってきた今はもう望みなんて持てそうになかった。


千尋は考えた。

ハクの事が好きなのか。って?

そうだよ。
もちろん大好きだよ。
いつだって忘れたことなんかなかったもの。

でも、違う。
きっと蓉子ちゃんが言ってるのはそうじゃない、
そうじゃなくて。
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ハク。
実は小さな川の主でもあった龍の少年。


みのりちゃんの横山くんが好きと私のハクが好きは一緒なのかな。

でも好きという言葉で表すにはちょっと違う気がする。
そんなじゃなくて、ハクは私のとても大切な人。


私たちの間にあるのはただ一つの、


「約束、」


ただ、もう一度会いたい。
それだけ。



「約束があったの」

「その人と?」
「うん」


突然の言葉に理解しかねつつも聞き返す蓉子に、千尋はどこか上の空でうなずいていた。



委員会が終わった後、夕方の教室で不安そうに横山君を待っていたみのりちゃん。
一生懸命作ったチョコレートの包みを後ろ手に持ち、来てくれた横山君を見てちょっと笑顔になったみのりちゃん。

そんなみのりちゃんみたいに、好きだとか、想いを伝えたいとか。そういうわけじゃない。
きっとそういうのじゃない。

けれど。



 私たちは約束した。



道の向こう。
あの森のある場所を千尋は見つめていた。
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