短い物語

□Is it you?
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 この年のバレンタインデーは、学生にとっては折よくも平日だった。


目下一番の注目、恋する乙女みのりちゃんは手作りのアーモンド入りチョコプレートを大事そうに袋に入れて学校にやってきた。

特に学校の男子生徒にはあげる予定のない蓉子と千尋も、友チョコとしてそれぞれに用意をしてきた。

実はお金持ちのお嬢様だったりする蓉子はちょっとした有名菓子店で購入したチョコレートを。
千尋は母悠子と一緒に作ったチョコレートケーキを綺麗にラッピングして持ってきている。


そんなこんなで3人の年頃の娘さん達はお昼休みにこれらを交換し合った後、乙女みのりと、とりわけ可愛くラッピングされたある一つのチョコレートを囲んでひそひそ話し合った。


というより、ちょっとどこか抜けているみのりを頼りなく思った蓉子があれこれ世話を焼いてあげたいらしい。

蓉子はマシンガンのように質問を飛ばしてみのりをたじろがせていた。


「で、次ね。これいつ渡すの?」
「えっと今日」
「いやそりゃ今日に決まってんじゃん、ボケはなしで」
「授業終わった後…放課後ふつうに呼び止めるつもりだけど」


ふわふわと答えていくみのり。
だが彼女は今は細かいところまで頭が回らなかったらしい。致命的な事を忘れている。

蓉子が気づいて指摘する。

「でも今日委員会だよ。しかも野球部今日部活だからつかまえるの難しそうじゃない?もう接触する機会なくない?」
「あそうだった」


みのりは千尋を見る。

その目がこう言っている。
忘れてたよどうしよう?


ちょっとそんな私を見られても。



困惑する千尋に、蓉子が言う。

「あ待って。そういえばちーちゃん、横山君と同じ美化委員じゃん。その時ちーちゃんから言って時間作って貰えばよくない?」
「私が?え、でも、」


こういうのは人任せではいけないと思うんだけど…。

そんな思いをこめて千尋はみのりを見たが、みのりはすでに両手を組み合わせて、ちーちゃんお願い頼みますのポーズをとっている。


「私でいいの?帰り際もちょっと時間あるかもだし自分で言って約束とかしといたほうがいいんじゃないかな」


するとみのりはふるふる小刻みに首を横に振った。
どうやら彼女の唇が動いている。


『だってそしたらばれちゃうよ』


彼女の唇はこう言っていた。


年相応に恥じらうその姿は多分可愛いんだと思う。
思うけれども


(別に、ばれていいんじゃないのかな?)

もっともな疑問を抱く千尋。
が、恋する乙女の事情は千尋が思う以上に複雑なようであった。
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