短い物語

□神隠し語り
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英語版神隠し感想

―その弐 台詞について―


お次は気になった部分、台詞についてです。日本版における該当箇所と比較してみました。


◇リン:Wha...,Whats wrong with you?
 女部屋に案内した後気分が悪くなった千尋を大丈夫かと気付かう場面です。日本版よりもさらにさらに優しそうな言い方です。そうなんです、全場面通して英語版のリンさんは威勢のよい頼れる姐御というよりも優しい姉さんって感じなんです。

◇リン:2Hakus? I can barely stand one.
 ハクが二人ぃ?一人でも厄介なのに〜云々の部分です。日本語ではいかにも嫌そうに言っていましたが、英語版ではクールな口調のままでした。日本語版のリンさんと違って英語版リンさんはハクなんて過剰に気にするまでもないようです。まあどちらにしても二人は仲が悪そうではありますがね。


◇ハク:Meet me at bridge...
橋の所へおいで。→橋で会おう。
橋の所へ呼び出すシーンですね。英語版のハクのささやきは不覚にもドキっとさせられました。はい、本当に英語版の彼の声はかっこいいですよ。

◇千尋:Is he a dragon?
 おにぎりシーン後、飛び立つ白い竜の姿を見た千尋の台詞です。なんていうか…言っちゃったよここで?ここでもう既にハク=竜って解っちゃってるんですかい?という感じ。
もうちょっと見てる側に謎を残しておいてほしかった。いくらなんでもカミングアウトが早過ぎます。そういうわけでおにぎりシーンの直後のこの台詞のおかげで、英語版ではハクの正体がもうこの時点でバレバレという事になっているんですね。


◇河の神:Well... done...(よきかな…)
 嗚呼やっぱりヴォルデモート声。悪役声にしか聞こえないですねコレ。エコーが恐すぎるんですね。


◇千尋:He is hurt!Haku,you are bleeding!
 式神に襲われたハクを見つけるシーンですね。「怪我してる!」「ハク、あなた血が!」日本版にはこんなにハクの怪我について直接言及する台詞はなかったはずなんですが。英版はかなり説明口調で心配してくれてます。


◇千尋:can you hear me?
傷付いたハクに湯婆婆さんの部屋で。日本語版ではそんな台詞はないんですがねココ。やはり増やしましたか。因みにこれって救急時の意識確認の時に使うあの言い方ですね。

◇釜爺:it looks like he's bleeding from inside. Maybe he swallows something.
「体の中から出血しとるようだ。恐らく何ぞ飲み込んだんじゃな。」
 なんだかまあ…釜爺ご丁寧過ぎる説明どうもという感じですね。日本語版では出血には触れていても『恐らく飲み込んだ』云々なんて一言も言っていませんでした。しかし確かにこのシーンについては、日本版で初めて見た時は『何だ何だ?どうした?』とついていくのに精一杯な状況だったので。これくらいの説明があったら解りやすくていいのかもしれない。まあ説明口調になってしまっているというのが気になりますけど。


◇釜爺:something you〜…〜 is going to love
 途中はなんだかよく聞き取れませんでしたが。これが『判らんか、愛だ、愛』の英語版の言い方だったようです。お前さんのわからん所で何かが愛に向かっているんじゃよ、とそういう言い方ですね。何て素敵な言い回し。素敵過ぎます。


◇What happened to my spell?...Only love can brake it.
「私の魔法はどうなっちゃったのかしらねえ?きっと貴女の愛が解いてくれたのね。」
なんとそういう解釈の仕方。そうですか千尋の愛がハクにかかった死の呪いを解いたと。またまた説明ありがとうという感じですね。

銭婆のこれといい、釜爺のハクは内部から出血〜云々発言といい、英語版では全体的に台詞の追加が多いんですよね。オリジナルでは喋ってないはずの所で千尋や銭婆はいろいろぺらぺら喋ってたりしていまして。
なんだかとても説明的です。


◇千尋を銭婆の家までハクが迎えに来たシーンでは。
銭婆の「グッドタイミングね」、の部分が英語版ではThats love for you(訳:あらやっぱり。あなたの恋人だわね)になってました。どんだけ二人をラブラブにさせたいんでしょうか英語版神隠しは。そんなに二人を恋人扱いしたいのでしょうか。


◇you did it!My name is kohaku river!
え、ええええやめてー。
英語版だと名前が琥珀川って……川、川?川ですか!和速水琥珀主とちゃんと言って下さいよ。川ってそんな…川そのものみたいな。そこはせめて川の主:Master of Kohaku riverだとか川の精:Spirit of riverだとかって言っておきましょうよ。ねえ?riverはないわー…。


◇will we meet again sometime?
sure, we will.
Promise?
Promise... Now go. Dont look back.
「いつかまた会える?」
「勿論、会えるさ」
「きっとよ?」
「きっと。さあ、行きな。振り返ってはいけない」
ハクと千尋の別れのシーン。ここは流石にこれ以上変えようがないと見た。……まあそうでしょうね。


◇全体感想

 そんなわけで英語版神隠し。

 こんな編集がなされたおかげで、英語版では神隠しが究極的にはハクと千尋のラブストーリーであったかのように認識されてしまったんですね。


英語版は文句は言いたくはないのですけれど、説明し過ぎなのがよくない方向に働いています。これでは、まだ自分なりに映画の解釈をする余地があるというのにその楽しみがなくなってしまう。

例えば先に挙げましたおにぎりシーンの後。千尋が空を飛びたつ竜を見てもしかしてアレはハクじゃないかとうっすら思うシーンがありますが、日本語版だとこの場面の千尋ちゃんには台詞がなかったので、私達は『ん?何がどうした?千尋ちゃん』『今意味ありげに飛んでいった蛇のようなものの正体は何だ?』と思う事が出来ます。つまり『あの白い奴=龍?=ハク?』と疑う猶予を、色々想像する機会を、見ている側としては貰えるわけです。
しかしこれが英語版になると、「ハクって龍だったんだ…」と千尋が既に明かしてしまっている為に、私達見ている側は疑問を持つ機会もないままに当たり前の事実として『ハク=今飛んでいったあの白い奴=ドラゴン』という事項を受容、認識するわけです。
楽しみが削がれるんですよね。


しかし、英語版でも悪い事ばかりでもなく。
お前さんの知らん所で何かが変わりつつあるんじゃよ。そう、二人の愛にな。
みたいなあの言い回しにはぐっと来たりもし、なかにはよい効果を出しているような場面もあります。




まあ。
しかしながらやはり全体的にはね。

宮崎監督はとても完成された作品を作られたのだなあと、改めて実感する事となりました。
英語版は所々余計な気をまわして補って下さっていたようですが、あそこまで完成された作品にそのような事をする必要はなかったと。
結局はそういう印象でした。


◇結論
 英語版神隠しについては英語版のよさも若干はあるんです。なので、私は英語版があえて批判されうるものだとは思いません。しかし、しかしです。最終的にはまあ…結局『宮崎駿は素晴らしかった』に帰結するかと思います。……回りくどい言い方ですが察して頂けると光栄です(笑)


以上、英語版の個人レポ終了。
お目通し頂きありがとうございました。


09 August 15
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