短い物語
□小咄集2
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『大好きな皆へ』
「行ってきまーす!」
元気な声を残し、少女は学校へと続く道を歩いて行く。
大きな柿の木のある家をまがり、神社の前の道を抜ければ、そこには小さな森がある。
少女はいつものように森の奥をのぞき込んだ。
小さな肩にはまだ大きいランドセル。少しずつずり下がってきたそれをキュッと押さえ、少女はすうっと息を吸った。
「おはよう、皆!!」
笑顔で少女は呼びかけた。
目を閉じれば、記憶の中の不思議な街の住人達も笑って送りだしてくれる。
『忘れ物はねぇか?』
リンさん。
小さい頃から欲しかった…
私のいいお姉さんだったね。
『今日も頑張るんじゃよ』
釜爺さん。
たくさんの手を振って私を応援してくれているの。
『気をつけるんだよ』
『ア…ア…』
銭婆のおばあちゃん。
それにカオナシ。
最初は怖いと思ったけれど、本当は二人ともとても優しい人だった。
おばあちゃん、あのお守りまだ持ってるんだよ。
『千尋!坊の事忘れてちゃダメだぞ』
『さっさと行きな!遅れちまうよ』
坊。
それに湯婆婆のおばあちゃん。
忘れてないわ。油屋で働いたこと。
みんなが私にいろんな事を教えてくれた。
――そして……
『行っておいで、千尋』
――ハク。私の大切な人。
白い白い、綺麗な竜。
「行ってきます」
ずっとずっと大好きよ…
「あっ、ちーちゃんだ!おはよう〜」
道の先から友達が手を振っている。
「おはようっ」
千尋は踵を返し駆け出した。
これから今日がまた始まる。
同じ時、森の奥から青空へと流れた白い線。
それは春の飛行機雲?
それとも―――――
fin?