短い物語

□小咄集2
2ページ/4ページ

 



『大好きな皆へ』





「行ってきまーす!」


元気な声を残し、少女は学校へと続く道を歩いて行く。


大きな柿の木のある家をまがり、神社の前の道を抜ければ、そこには小さな森がある。


少女はいつものように森の奥をのぞき込んだ。
小さな肩にはまだ大きいランドセル。少しずつずり下がってきたそれをキュッと押さえ、少女はすうっと息を吸った。



「おはよう、皆!!」

笑顔で少女は呼びかけた。
目を閉じれば、記憶の中の不思議な街の住人達も笑って送りだしてくれる。


『忘れ物はねぇか?』

リンさん。
小さい頃から欲しかった…
私のいいお姉さんだったね。


『今日も頑張るんじゃよ』

釜爺さん。
たくさんの手を振って私を応援してくれているの。


『気をつけるんだよ』
『ア…ア…』

銭婆のおばあちゃん。
それにカオナシ。
最初は怖いと思ったけれど、本当は二人ともとても優しい人だった。
おばあちゃん、あのお守りまだ持ってるんだよ。


『千尋!坊の事忘れてちゃダメだぞ』
『さっさと行きな!遅れちまうよ』

坊。
それに湯婆婆のおばあちゃん。
忘れてないわ。油屋で働いたこと。
みんなが私にいろんな事を教えてくれた。



 ――そして……





『行っておいで、千尋』



 ――ハク。私の大切な人。
   白い白い、綺麗な竜。





「行ってきます」



 ずっとずっと大好きよ…



「あっ、ちーちゃんだ!おはよう〜」

道の先から友達が手を振っている。

「おはようっ」

千尋は踵を返し駆け出した。


これから今日がまた始まる。



同じ時、森の奥から青空へと流れた白い線。
それは春の飛行機雲?


それとも―――――




fin?
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ