短い物語

□ススワタリ郵便
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『ススワタリ郵便』



〜Prologue〜



『あの子』が油屋にひょっこりやって来て、
そして来た時と同じように突然いなくなってしまってから
どれくらいが立っただろう。

忘れてしまったわけじゃないとは思うけれど、油屋も、その従業員達も、みんなみんないつもと変わらない毎日に戻っていった。
なにもかもが今まで通りで、少し呆気ない。


でも、オレの中では一つだけ変化してしまったままのものがある。
こればかりは今まで通りってわけにはいかないみたいでさ。


それは心。
オレの気持ち。


なんだか…忘れられないんだ。
『あの子』の事。
どうしてこんなに気になってるのか、自分でもよくわからない。
けど、

また会いたい。
もう一度、一目だけでもいい、会いたくてたまらないんだ。



でも、『あの子』はもうココには来ない。
わかってるよ、理解してるんだ。
この世界に在るべきじゃない存在だからそれは仕方がない。



だからオレ、決めた。


『あの子』が来れないんだったら、オレが『あの子』に会いにいく。
あっちの世界にオレが行ってやるんだ。


仕事をしなければただのススに戻されちゃうぞって釜爺はいうけど、この拘束には抜け道があるって事をオレは知ってる。
ボイラー室を出ても、仕事を続ける意思があるうちはオレ達ススワタリの魔法は解けないんだ。
油屋に戻って来ようとする意思さえあれば大丈夫。

とどのつまりは、オレ達の出番が来る夕方までに戻ってきさえすればいいって事だろ?
それくらい上手くやってやるよ。



…あ、早くしなきゃみんなが起きてきちゃうな。
仲間や釜爺に見つからないうちに行かないと。




ようし!
待っててよね、『千』!!




  
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