物語

□心当て
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「(何でこんな事になっちまうんだ…?)」

その日穏やかな昼下がり屯所の廊下で土方は苛ついていた。
理由は目の前で起こっている出来事。
眉間に皺を寄せる土方の涼やかな瞳が見つめる先には、薄い桜色の袴に身を包んだ艶やかな黒髪をひとつに結った少年…。
いや少年改め見る人が見れば一目で判る男装姿の可憐な少女、雪村千鶴がいた。
だがいつもならくるくるといろんな表情を見せてくれるはずの彼女の愛らしい栗色の瞳は、固く閉じられ今ではぽろぽろと涙を流しているのだ。

「だから、何で泣くんだよ。」

「す、すみませんっ〜!」

土方の理由が判らないという質問に千鶴は謝る事しかできなかった。

「あー!土方さんが千鶴泣かしてる!!」

そこへ突如上がった非難の声に顔を向けると、丁度市中の巡察から戻ったらしい新選組八番組組長である藤堂平助と一番組組長沖田総司がそれぞれの表情を顔に貼りつけて二人のもとへ近づいて来る。

「ちっ、よりによって一番面倒な奴等が来やっがた。」

土方はぼそりと呟くと更に眉間の皺を深くしため息をもらす。
平助は判りやすく怒気をはらみつつ、そして総司は…、何故かにやりと笑んでいた。

「ちょおーっと土方さん、何やってんすか!大丈夫か千鶴!?」

「女の子泣かすなんて最低だなぁ土方さん。」

互いに非難の声を上げてくるが相変わらず総司は面白いものを見つけたとばかりに目が笑っている。
確かに鬼の副長とも呼ばれている土方の目の前で純真無垢、付け加えて根が正直すぎる程の千鶴が泣いていれば土方に非難がいくのも無理もないのかもしれない。

「お前らなぁ!」

事情を知らない周りから見れば仕方ない判断だと思いつつも既に苛ついていたため思わず声を荒げ弁解しようとすると、今までぽろぽろと泣いて黙っていた千鶴が口を開いた。

「あのっ、違うんです!土方さんは全然悪くないんです!!むしろ私が悪くて。」

そう言うと未だに涙を浮かべながら何故か顔を赤らめ、また口ごもってしまった。
全く事情が掴めないという平助と総司に、土方は今日何度目かのため息を吐きつつ何とか冷静に説明をしだす。
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