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□記憶
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それは突然起きた

澪と話しながら階段を昇っている時、急いで降りて来た人と澪の肩がぶつかり、澪がバランスを崩した

「危ない澪!」

澪をかばって、あたしの体が宙に浮いく

落ちる中、「律ーぅ!」
という声が聞こえ、途中であたしの意識は途絶えた

気がつくと病院のベット
そこには泣いてる人がいる

「律っ!よかった」
と抱きしめられた

「…誰?」

「えっ」

知らない人に抱きつかれて戸惑いを隠せない

そして、あたしの言葉を聞いてその人の表情が一瞬にして変わっていく

絶望に突き落とされたような顔

「り、りっちゃん?」

「唯。この人は誰なの?」

「!?あたしはわかるの!?」

「なに言ってんだ?当たり前だろ?ムギは知ってるの?」

「………」

りっちゃん、澪ちゃんのことを…

「嘘でしょ、律?」

「…?お名前は?」

その言葉を聞いた瞬間、涙が流れた

律はあたしが泣いているのに驚いて動揺している

嘘…でしょ?こんなの…

それから律の親が律が目を覚ましたのを知って医者を呼んで来た

「記憶喪失ですね。頭を強く打ったせいで、記憶が抜けてしまったと思われます。強く思ったことが一部的に抜けてしまうことがあるんです」

「そんな…記憶は戻るんですか!?」

「なんとも言えません」

その言葉に目の前が暗くなり、再び涙が溢れだす

感情が絶望に埋れていく感覚

「り、律ぅ〜あぁ」

「み、澪ちゃん、しっかりして!諦めちゃだめよ!このままで良いの?」

「辛いだろうけど、辛いのはりっちゃんも同じだと思うの。一緒に頑張りましょう?」

唯とムギが泣きながらあたしを励ましとくれる

「…唯、ムギ」

でもショックは隠しきれない

私は学校を休み、しばらくして気持ちを入れ替えてから律の病院に行った

それからあたしは律に私の関係を話し、写真もみせた

ちょっとでも思い出してほしい、その一心の気持ちで

「そうなんだ。幼なじみだったんだね。澪ちゃんだっけ?」

「…うん」

その呼び方にまた涙が出そうになるが、ぐっとこらえる

「嬉しいな」

「えっ?」

「だって澪ちゃんみたいな綺麗な人が幼なじみなんてさ」
と律はあたしに笑いかける

律はやはりあたしを忘れてしまっている

わかっている、わかってるけど

あたしはその現実に耐えられなくなり、トイレに行くふりをして、ただ、ひたすら泣くことしか出来なかった

律の変わらない笑顔

でも、今までの思い出がなかったことになって

自分を忘れられることが…こんなに辛いなんて


しばらくしてから涙を拭き、気持ちを落ちつかせて病室に戻ると、律は写真を見ていた

「あ、澪ちゃん。写真の説明してもらっていい?」

あたしはひとつひとつの写真を説明していく

律との思い出がたくさん
瞼が熱くなり、自分の意と反してまた涙が零れてしまう

慌てて拭いてごめんと謝り、律の顔を見ると…そこには泣いている律の姿があった

「!?律?」

「ご、ごめん。思い出せないの悔しくって。早く思い出したいな。だって澪ちゃんと映ってる写真、楽しそうで、幸せそうなんだもん」

辛そうな律の表情、言葉を目の当たりにしてあたしは居ても立っても居られなくなり、思わず律を抱きしめた

「澪ちゃん?」

「ごめん…ちょっとだけ…このままで、いさせて」

涙は止まることを知らない

律は戸惑いながらもそんなあたしを受け止めてくれていた

辛いのはあたしだけではない




それから律は退院して、家から病院へ通うようになった

あたしは律の家へと向かう


その頃、律は部屋を色々探索してあるものを発見していた

小学生の卒業の時に、十年後への自分への手紙

内容をみると

十年後のあたし!元気ににしてるか?
澪と仲良くしてるか?ちゃんと告白できたんだろうな?

澪に嫌われたって、なんだってちゃんと告白しろよ、後悔するぞ?
あたしの夢は澪と結婚することだからな

じゃあな!

と書いてある

「あたしが澪ちゃんのこと好き……!?」

その瞬間、一気に駆け上がるかのように記憶が蘇っていく

温かい、あたしにとって大切な記憶が

そして、途端に家のチャイムがなった

階段を昇る音
その音を聞いて思わず笑みが零れる

「律、入るよ?」

「どーぞ」

がちゃっ

入った瞬間思いっきり抱き着いてやった

「律!?」

「澪、好きだぞ」

「!?思い、出したの?」

「うん、ただいま。澪」

「お、か、えりっ、律ぅーうぁーん」

「ごめんな、澪。辛い思いさせたな」

「り、律〜うぅ」

「澪」

飽きもせずに何回もお互いの名前を呼び合う

「あまり泣くと目腫れるぞ?」

あたしは瞼にそっとキスをした

そして目が合い、今度は唇にキス

懐かしい感触、あたしも涙が出る

愛しい

あたし達は空いてしまった時間を取り戻すかのように埋めていった


それから唯とムギにも記憶が戻ったことを報告したら、泣きながら喜んでくれた

「律、またドラム走ってるぞ?」

「いーじゃん、大事なのは勢いだよ!」

すぐ調子に乗るので鉄拳を食らわせる

「痛っー、愛がないぜみおしゃん」

「律がくだらないこと言うからだ」

そしてお互い笑い合う

いつもの日々があたしにとってなによりも幸わせ

そう気づいたから

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