book3
□月が綺麗ですね
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部活ですっかり遅くなって、律と2人で帰っている時だった
律がふと空に指をさす
「澪!見ろよ!月がまん丸だぞ!」
律がテンションを上げながら言い、あたしもその言葉に釣られて空を見上げる
確かにそこには丸くて綺麗な月が光っていた
「本当だ。そっか、今日は十五夜だったんだな」
「なに!?じゃ、お月見しなくちゃな!」
する律のテンションはさらに上がり、まるで小学生のようでなんだか微笑ましい
そして綺麗な月を眺めていると自然と有名なセリフが頭を過った
「そういえばさ、月が綺麗ですねってやつ授業でやったよな!」
「あぁ、夏目漱石のやつだよ。夏目漱石が先生をやってた時、生徒が“I love you”を“我君ヲ愛スと訳して、夏目漱石は“月が綺麗ですね”と置き換えて言いなさいって生徒に言ったんだよな」
どうやら律も同じことを考えていたらしい
あたしはこの話が結構好きだったりする
「でもなんでI love youが月が綺麗ですねになるんだよ?」
「まだ愛という言葉には馴染みがなくて、昔の日本人は特にシャイだったんだ。だから、なかなか感情を露わにしなかったらしくて、月が綺麗ですねと置き換えることで気持ちを露わにしようとしたらしい」
「へえー、でもそれだったら伝わらないかもしれないじゃんか」
律は不満そうに話す
確かに相手には伝わらないかもしれないけど
「それが古風だと思ったんじゃないか? 夏目漱石は他にも“愛してる”を“死んでもいい”と訳したくらいだからな」
直接的ではなく、間接的に相手に気持ちを伝える
それが例え伝わらなくても
あたしはなんだかその古風がわかるような気がする
でも、律はやっぱり不満そうな顔のままだ
だから、そんな君にあえてこの言葉を捧げよう
「りつ」
「ん?」
「月が綺麗ですね」
すると律は顔を赤くし、パクパクと口を動かした
ほら、内気なあたしでも使えるからやっぱりいい
すると今度は律があたしの名前を呼んだ
「澪、大好きだ!」
「なっ!?///」
今度はあたしが赤くなる番だった
やっぱり直接的に感情を伝えることも大事なんだと知った
だって、こんなにうれしいから
「うん、…あたしも大好き//」