二次創作
□時の流れ
1ページ/1ページ
時に黄昏れながら彼は時の流れをゆっくりと感じていた。
だが不意に彼は考える。時が流れるとは一体どのような事なのかと。実際には時が流れる事は無い。言葉の文なのだが、彼は時にそんな途方も無い事に想いを馳せた。
「雲雀君、時が流れるってどういう事だと思いますか?」
「いきなり何? 哲学でも始めたのかい?」
夕暮れの並盛町を二人は歩く。突然の六道の言葉に雲雀は目を丸くした。
六道骸と雲雀恭弥は昔から犬猿の仲で共に歩いている姿を目撃された事は無い。しかし今回はボンゴレ直属の命に置いて供に任務を遂行せねば成らなかった。それ故二人は共に歩幅を合わせていたのだ。
「いいえ、そうじゃないですけど。考えてみたらおかしいじゃないですか、時が流れるなんて言葉」
夕陽が差し込む明るさに六道は目を細める。その表情を見た雲雀は普段見ない表情に不覚にもどきりとした。美しいだなんて感じた自分が馬鹿だと思いながら、雲雀はそっと視線をそらす。
夕焼けが自分たちを包んでいる暖かさが心地よかった。
「そう、確かに変かもしれない。でもそういう言い回しなんだから仕方が無いんじゃないの?」
「言い回しね……誰がそんな言葉を一番始めに考えたんでしょうかね」
「何でそれを僕に聞くのさ、それよりも何故君がそんな事を気にしているのか凄く気になるよ」
「おや……」
雲雀の言葉に骸は意外そうな表情をして笑みを浮かべる。彼にとって言葉を考えるのはとても一般的な事だった。帰国子女であるが故なのか、骸にとって日本語にはよくわからない言葉がたくさん有る。しかし彼がそれを口にした事が無かった為に、誰も骸がそんな事を考えているとは想いもしなかったのだ。
骸の笑みの後ろにそんな事情が有るとは想いもせずに、雲雀は複雑な心境で骸を眺めた。
彼の表情が美しいと――彼の心が美しい、と。
実際そんな事が有る筈も無く、骸は犯罪を犯して来た人間であるとは百も承知の感情である。だからこそ、雲雀は自分の感情に困惑するのだ。
「骸、どうして今それを僕に言うんだい?」
雲雀は訪ねてみたかった。別に期待をしていた訳ではない。骸が何故自分にそんな事を話したのかとても気になったのだ。
骸は雲雀の方にちらりと視線を向けて、小さく鼻で笑う。まるでその質問が愚問であるかのように――。
「なんとなく、ですよ雲雀君」
クフフ、と笑みを漏らして骸は雲雀よりも少し早く歩く。雲雀はそんな骸を見て少し腹立たしく感じながら同じスピードで歩いた。
「君ってつくづく腹立たしいね」
「腹立たしくて結構ですよ、僕は」
そろそろ日が沈もうとしていた。二人の姿もゆっくりと闇の中へ沈んで行く。こんなにも時が穏やかに過ぎて行くのは、今回の任務がとても簡易な物であったが故なのかもしれない。
――並盛に訪れた緩やかな不協和音。それが何なのかを知るのはこの二人だけである。
「雲雀君、時間の流れが遅いと思いませんか?」
「そう? 僕には早く感じるよ」
双方とも抱いている想いは異なる。
骸は此の時がゆっくりと過ぎて行ってほしいと願うが故に、雲雀は此の時が楽しいが故に。禁断の果実であると知りながらも、二人は手を出さないではいられないのである。
今宵も時が流れて行く――
何人にも平等に与えられて、何人も無常の中に有るのだ。
流れて行くのは時だけではなく、人の心も同じ物である。例外等なく、また誰にとっても“今”はとても大切な時である。
雲雀は知らない、骸の心を。
骸は知らない、雲雀の心を――。