二次創作

□スナオな気持ち
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ずっと遠くから君を見ていた。そんな事を彼へ言ったら、案の定骸は苦笑して僕の頭を撫でてくれる。
きっと君は僕の気持ちなんて分からないんだろうから、敢えて君にはっきりと言う事はしない。
だって本心を曝け出してしまったら、君は僕から遠ざかって行ってしまうかもしれないもの。こんなにも心が張り裂けそうなのに、君は僕を“好き”ではないかもしれないでしょ。

だから――


「ねぇ恭弥、如何して戦ってくれないんですか?」

「君なんか嫌いだからだよ」


敢えて、拒絶するような態度をとってしまう。本当は好きなのに、本当は近付きたいのに。君の望む事ならなんだってしたいと言うのに、如何しても素直になれない。素直に言えない。
でも君は笑いかけてくれて、僕に嬉しそうに話すんだ。


「嫌いだろうが何だろうが、戦いには関係のない事ですね」

「うる、さい」
「クフフ、君らしくないですね、大丈夫ですか?」


彼の笑みもその声も、全てが僕の心を掻き乱す。どうしてそんなにも僕を動揺させてくれるのだろうか?
骸、君が僕の目の前に現われてからは、何時も君が大切でどんなときでも忘れる事が出来ずにいる。こんな事を思っている僕は、狂っているんだろう。

骸が僕の額に手を伸ばした時、何時もなら振り払うその手を今日は素直に受け入れた。熱など無い。風邪でもない。でももしも此れが風邪だというなら、君に酔いしれた事で発病する……僕だけが掛る風邪かもしれない。
じわりと手から伝わる温かさにぼやけつつも、僕は骸の瞳を見つめていた。


「熱は無さそうですが……雲雀? ぼけてます? 大丈夫ですか?」

「……いいや」
「大丈夫ですか?」
「大丈ばないよ……」


同じ言葉を繰り返しながら、不意に気づいた事があった。
一瞬だけ僕を見た骸の瞳が揺らいで、まるで泣きそうに僕を見つめた事。僕はその時ドキリと高鳴った心臓の音が彼に聞こえやしないかと心配した。そしてその表情が心に残る。


「大丈夫じゃないなら、その原因を突き止めなくてはいけませんね」
「……それ、言わないよ」
「おや、何故です?」
「そ、それは」


骸――どうして君は、僕をこんなにも困惑させる? 君が好きだと言う事を僕は此れまで言えなかったというのに、如何して君は僕に言わせる気にさせてくれる?
此れは君が僕にかけた幻覚だろうか。いやもしも違っても、僕は――君に素直になりたい。

心臓が、ドクドク波打つ音が聞こえる。口を開いただけでも、その音が更に早くなっていた。


「骸、お前のせいだよ」
「……」


骸の反応がとても気になった。おずおずと骸に視線を向ければ、彼は俯いて何も返事をしない。そんな彼を見ていると段々と怖くなってきて、血が降りていく感覚に襲われた。
僕は骸に嫌われてしまうと思うと……悲しくて胸が引き裂かれそうで、泣き出したくなっていた。

これまで我慢して言わなかったのに、如何して今になって言ってしまったのかと後悔もした。
しかしその時、骸は優しく僕を抱き締める。突然の事に身体が強張りつつも、悲しい気持ちや恐怖は消え去り、嬉し涙が込み上げてきた。


「実は、僕は君の事がずっと好きでした」
「っ……!」


耳元で囁かれるテノールの響き。彼の全ての記憶が一瞬にしてリピートされ、彼の全てが蘇ってくる。微かに香る薄い香水の香が、更に頭をぼやけさせて行く。
彼で満たされている僕がなんだか夢のようだった……


「僕も、骸が、好き」
「やっと言ってくれましたね」


まるで待ち侘びていたように骸が言うと、彼は僕をしっかりと見てやんわりと笑った。

スナオに言って良かったと初めて思えた瞬間、永遠に恋に堕ちて行く――

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