Shortstory
□敗北の証
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夢を見ていた。
大切な友が、何よりも信頼出来る仲間達が傷ついていく夢。
無力な自分はそんな彼らを守る事が出来ず、ただ呆然と立ち尽くす…
-敗北の証-
***
「……めろ…を…な…」
カントーのとある病院。
その中の、一つの病棟に、一人の重症患者が入院していた。
“彼”の容態は、全くと言っていい程芳しい物ではなかった。
身体中全身をあちこちにぶつけたのか、薄らと滲む赤い血。
そして、腹部には強い衝撃が与えられたのか大きな痣。
それは、内臓がイカれていないのが不思議である程の物だった。
そして、極めつけはその体温の低さ。
“彼”を病院に連れてきた男によると、“彼”は全身氷付けのまま何ヶ月も山の中に放置されていたらしい。
男が“彼”を氷から救い出した後直ぐに暖めたとはいえ、未だ回復の兆しが見えない。
そして、“彼”は延々と悪夢にうなされていた。
「やめろ…それ以上皆を傷つけるんじゃない…」
…“彼”の言う皆とは、一体誰の事なのか。
“彼”が重症を負っていた事と関係があるのか。
それは“彼”自身にしかわからないだろう。
“彼”が入院してからもう1ヶ月程になるが、“彼”を診ている医師は、“彼”が全快するのはまだまだ先の事だろうと思っていた。
全身の擦り傷、打ち傷や、腹部の痣などはだいぶ治ってきているのだが、原因不明の…一時的とはいえ、かなり重度である手足の痺れだけは未だ治療方法さえもわかっていなかった。
“彼”が全身氷づけにされていたことと関係があるのかどうかはわからないが、とにもかくにもその原因がわからないので、治療のしようがなかったのだ。
医師は、自分の患者である以上、“彼”を全快する所まで治してやりたいと思っていた。
それは、決して“彼”が有名なトレーナーであるからという理由ではなく、医師としてのプライドがあったからだ。
…そして今日も医師は“彼”の状態を見に行く。
「…、これはっ!」
すると、医師は“彼”の状態を常に測っている機械から、警告音が鳴っている事に気付いた。
ただ、それは、“彼”の状態が悪化した事を示す物ではなかった。
寧ろ、その正反対…“彼”の心拍数が通常の物にまで戻り、間もなく“彼”の意識が戻る事を示す物だった。
息を呑む医師の前で、“彼”はその赤の瞳をゆっくりと開いた。
「……っ、」
「…大丈夫かい?」
どうやら意識が回復したようだったが、まだ頭ははっきりとしないようだった。
それもそうだろうと思い、医師は状況を把握出来ていない“彼”にそっと言葉を掛けてやった。
「…ここは…」
「ここはカントー地方にある総合病院だよ。君は1ヶ月前からずっとここに入院してたんだ」
「…入院……っ!!」
医師の言葉を聞いていた“彼”は、初めはわけがわからずに混乱した表情を浮かべていたようだったが、やがて自分がここに来るまでの全ての事を思い出したらしく、顔色を変えてベッドから跳ね起きた。
しかし、その時に身体の数箇所が痛んだらしく、顔が苦痛に歪んだ。
「うあ…っ」
「まだ動いちゃダメだ!君は重症人なんだぞ!?」
「く…今はオレなんかの事よりも、皆の事の方が大事なんだ!」
苦痛に耐えながら、レッドはそう叫ぶように言う。
そんな彼を見て、医師は一つ溜め息をついた。
「…君ならすぐに飛び出そうとするだろうと聞いていたよ。だから、私は君を止めない。君には行かなきゃだめな所があるんだろう?」
「…はい」
「君のポケモン達と、預かり物だ。…くれぐれも気をつけて」
「ありがとうございます!」
“彼”は、そう言って医師が差し出してきた六つのボール…一つは空であるその仲間達が入ったボールと、よくわからないが“預かり物”だという三つの石みたいな物を受け取った。
そして、医師に断って急いで病室を飛び出していった。
「…やれやれ、本当にあれが少し前まで重症だとして入院していた少年なのか?さすがはセキエイリーグチャンピオン…私が心配するまでもなかったか」
…“彼”の後姿を見送りながら、医師はそう呟いていた。
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