囚われの罪人
□約束の時
1ページ/4ページ
かつてカントー・ジョウト地方を震撼させたロケット団事件。
その事件に立ち向かっていった少年少女達がシルフカンパニーでの決戦を終えてから、一年の時が過ぎようとしていた。
「郵便でーす!」
カントー地方トキワシティ。
ここのトキワジムに、最近新しいジムリーダーが就職した。
そのまだ少年とも言える歳のジムリーダーは、その真面目な仕事ぶりと、誰もが見惚れる容姿と、そして何より第九回セキエイリーグ優勝者という実力のせいで、挑戦者が絶えることなく、かなり多忙な毎日を過ごしていた。
この日も朝早くからジムにやってきた少年は、早速現れた挑戦者の相手をしていたが、郵便屋が荷物を届けにきたのを確認し、一旦試合を中断させた。
「…すまない。少し郵便物を受け取ってくる」
「わかりました!」
対戦相手である少女は、そう答えた。
実はこの少女、少年と認識があり、よくジムに挑戦しにきていた。
少年は少女が頷いたのを確認し、郵便物を受け取りにジムの入り口に足を運んだ。
「第九回セキエイリーグ優勝者、グリーンさんですか?」
「ああ」
少年…グリーンが頷いたのを確認すると、郵便屋は配達物を詰めたバッグを漁り始めた。
一方のグリーンは、郵便屋の言葉に驚いていた。
自分に届く配達物には、ほぼ例外なくトキワジムジムリーダーという肩書きがついていた。
しかし、この郵便屋は第九回セキエイリーグ優勝者と言った。
ただの偶然か、それとも…
しかし、グリーンのその疑問は、ようやく郵便屋が差し出してきた手紙の送り主を見て解消された。
「あ、これだ!…はい、間違いなくお渡ししましたので!」
郵便屋はそう言って一礼すると、次の配達先に向かっていった。
グリーンはその場で手紙を開封して読んだ。
その手紙の送り主は、
「ポケモン協会から、か……」
「あ、グリーンさん、お帰りなさい!」
グリーンがジムの闘技場に戻ると、ずっと待ってたであろう少女が笑顔で出迎えてくれた。
グリーンはそんな少女に申し訳なさそうにこう言った。
「すまない、イエロー。今日はもう、これで終わりにしてもいいか?」
「わかりました。…何かあったんですか?」
試合を中止され、少女…イエローは怒りこそはしなかったが、何かあったのかと不思議そうな表情をした。
グリーンはそんな彼女にこう答えた。
「…明日は何の日か、覚えているか?」
「え?えーっと……何でしたっけ?」
「…第十回セキエイリーグだ」
「あ!そういえば明日でしたね…」
「それで、俺は前大会優勝者として、エキシビションマッチをやらないといけないらしい」
「え?誰とですか?」
グリーンの言葉に、イエローが不思議そうに返す。
「…それが、秘密、だそうだ。どうやら、協会が明日の大会に参加する一般トレーナーから強そうな奴を選定したらしくてな…そいつは俺と戦うと知らされているが、俺はそいつが誰だか知らされないらしい」
「ええ!?だったら、グリーンさん、不利じゃないですか?」
あまりにグリーンに不利な条件に、イエローは思わず非難の声をあげてしまった。
グリーンはそんな彼女に笑いかけると、自信有りげにこう言った。
「フ、そこら辺の奴に負けやしないさ。……まあ、油断はできないからな。だから、今日はトレーニングに時間を費やしたいんだ」
「わかりました。じゃあ、出ていきがてらジム閉鎖の看板を出していきますね」
そう言って出ていこうとしたイエローに、グリーンが不思議そうに声を掛けた。
「わざわざ出ていかなくても、ジムの闘技場を貸してやるから特訓すればいいぞ?」
イエローはその言葉にふわりと笑って答えた。
「それではグリーンさんの邪魔になってしまうでしょう?それに、明日のリーグ、グリーンさんも出るのでしょう?」
「ああ。本戦からだがな。それがどうかしたか?」
「…私も、明日のリーグに出ようと思うんです。だから…一人で特訓してきます」
「…わかった」
対戦するかもしれない相手に自分の手の内を見せるのは自滅行為。
それがわかっているグリーンは、イエローが出ていくのを引き止めはしなかった。
「………お前は、ちゃんと出るんだろうな?」
イエローが出ていき、一人残されたグリーンは誰に話し掛けるでもなく、そう呟いていた。