囚われの罪人
□最終目的
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いつもと変わらない世界。
しかし、運命の歯車は、
確実に動きだしている。
「……カツラさんが…!」
『ええ。カツラさん自身の証言により、グレンタウンを壊滅状態に追込み、ミュウツーを奪っていったのは……レッドのようですわ』
「そんな………レッドが………」
『グリーン達の報告によると、もう殆どの伝説のポケモンが捕らえられてしまい、残るはルギア、ホウオウと幻のポケモンだけになってしまったみたいですわ。……もう、残された時間は、少なくなってきていますわね』
「…だったら!早くルギア達を保護しに行かないと!」
『そちらはグリーン達に任せております。私達は、全力で彼らをサポートすべきですわ』
「…わかったわ、エリカ」
『では、また何かわかれば、お伝えしますわ。ごきげんよう』
暗いジムの中、エリカと通話していたトレーナー……カスミは、通話が切れると放心したかのように椅子に座り込んだ。
彼女は、未だここ最近の事件を信じられずにいたのだ。
「………でも、もう疑いようが無いわね……」
正義のジムリーダーの一人、カツラが言うのならば、確かなのであろう。
「……レッド…………」
カスミは、彼の名をそっと囁いた後、大きく息を吐いて、椅子に沈み込んだが、ふと物音を聞き付けて、パッと顔を上げた。
…おかしい。
確かにジムは閉めたハズだ。
……泥棒?
そう考えたカスミは、物音がする闘技場へと向かった。
闘技場に入ってみると、暗闇の中、微かに人一人分の気配を感じる。
その人物は、辺りを探っていたようだが、カスミが入ってきたのを感じると、今まで微かに漂わせていた気配を完全に消してしまった。
これでは、動くに動けない。
互いに相手の気配を探り合う沈黙の時間が過ぎ、もうお互い息をしていないのではないかと疑ってしまう程ジムの内部が静まり返ったとき。
不意に、暗闇から侵入者の声が聞こえた。
それは、意外な事に、まだ若い、しかしどこか冷たさを感じられる少年の声だった。
「…………カスミか?」
「……一体、誰!?」
どこか聞いたことがあるような声。
しかし、友人たちがこんなことをするワケがなく。
「……一体何故こんな夜中に入ってきたの?ていうか、どうやって!?」
「…………鍵を壊して…。……ジムにきた目的は………」
ここで一旦少年の声が途絶えた。
訝しく思ったカスミは、闘技場の明かりを点けようとした。
しかし、その直後、背後から口を塞がれ、身動きできなくなった。
「〜〜〜〜〜!(放してよ!)」
「……こちらの要求を呑めば、手荒な真似はしない」
それを聞き、カスミは少し力を抜いた。
少年はそんなカスミにこう言った。
「…ジムバッジを出せ」
その声には、何も感情が籠もっていなかったが、カスミには、ほんの僅かな苦しみが感じられた。
身体を拘束されているので、抗うことはできず、渋々ジムバッジを渡す。
その時、暗闇に慣れた目が、侵入者の少年の顔を捉えた。
暗闇に溶け込みそうな、漆黒の髪に、血のような真っ赤な瞳。
それを見た瞬間、カスミは思わず叫んだ。
「………あんた、まさかレッ……………」
しかし、最後まで言い切る前に、少年に鳩尾をつかれ、意識が遠退いていった。
少年………レッドは、カスミが意識を失ったのを確認すると、大きく息を吐いて、ジムの外に出た。
そして、近くの草むらに寝転び、空を見上げた。
「…綺麗な空、だなあ……」
満天の夜空に輝く星は、自分の苦しさを少し和らげてくれそうな気がした。
ふと何物かの気配を感じて、そちらの方に顔を向ける。
そこには、自分の仲間であるポケモン達がいた。
皆それぞれ、グレーバッジ、レインボーバッジ、そしてクリムゾンバッジを持っていた。
これで、先ほど自分がカスミから奪ってきたブルーバッジと合わせると、カントーの正義のジムリーダーズのバッジを全て手に入れたことになる。
ポケモン達に感謝の言葉を掛け、ボールに戻す。
飛行手段であるプテだけは、外に出しておいたが、レッドはすぐには飛び立とうとせず、暫くの間その草むらに寝転がって星を見上げていた。