Shortstory
□過去拍手詰め合わせ
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私は…
とある人が好きだ。
けど、その人はあちこちを旅していて、なかなか会えない。
というか、まだ名前さえも知らないのだ。
当然連絡先などわからず。
わかっているのは、その人が私と同じマサラタウン出身ということだけだった。
私が最初に彼を見たのは今から2年前。
ポケモンリーグに出場したときだった。
リーグ会場前の広場では、皆トレーニングをしていた。
そのなかに彼はいた。
彼のポケモンは強くて…そして彼は楽しそうだった。
私は思わず声をかけていた。
「あの…」
「ん?」
「強いんですね」
「そ、そんなことないって!」
そういいながらも、彼はとても嬉しそうに頬を赤らめた。
「キミ、リーグにでるの?」
「はい」
「だったら、俺のライバルだね!」
「ですね!」
「あのさ…敬語やめてくれない?」
「え?」
「同い年でしょ?」
「えΣ」
気付かなかった。
聞けば彼は同い年。
私の背が小さいのと、彼が子供っぽい明るさと同時に、すごく大人な雰囲気を持っているのとで、全然同い年には見えなかった。
「キミ…鈍感?」
「そんなことないって!////」
「ははは…」
そういって私たちは、互いに名前も知らないのに笑いあった。
その直後だった。
突然彼がすごく真剣な顔になって叫んだのは――――
「危ない!」
「え…?」
あまりに唐突で、私は反応が遅れた。
そして。
後ろから大量に走ってきたケンタロスの群に巻き込まれ、意識を失った。
目がさめたのは、3日後だった。
「ぅぅ…」
「あ、目が覚めた?」
「おかあ、さん…」
「無事でよかった…」
「リーグは…」
「終わったわ…あなたは棄権ということになったわ」
「そう…」
「ほんと残念だったわね…」
「…そういえば、あの人は?」
「あの人って?」
「私に危ないって言ってくれた…赤い服の男の子…」
「ああ、彼なら無事だったわ。ついでにリーグで優勝したみたい」
「…よかった………」
「彼…ここマサラの出身みたいね」
「名前は?」
「えーっと…なんだったかしらね?レン?レッズ?そんなふうな名前だったと思うんだけど」
「…ふーん」
名前はわからないか…
それからというものの、私はひたすら彼を探し続けた。
最初は闇雲に旅をしていたが、そのうちに諦めがたった。
その後はどうすればいいのかわからず、ただただむしゃくしゃする日が過ぎていくだけ。
そうして過ごしていたある日。
お母さんが突然、
「オーキド博士のところにいってらっしゃいな」
って言ってきた。
何があるのかわからなかったが、とりあえず行ってみた。
「おお、よくきた」
まるで孫でも出迎えるかのような暖かい歓迎をうけた私に、博士は衝撃的な話をした。
「キミのお母さんから聞いたのじゃが…キミが探しているのは恐らくレッドじゃろう」
「レッド、か…」
「実は…ワシの孫のグリーンから連絡があって、今レッドと一緒にいるそうじゃ」
「!!」
「そこで、今からこっちにくるように言ったのじゃ」
「ほんとですか…?」
「うむ。もうすぐの辛抱じゃよ。キミの命の恩人はすぐくるはずじゃ」
あのとき彼、いやレッドが叫んでくれなかったら、私は受け身もとれず、死んでいただろう。
しかし、レッドに会いたいのはそれだけが理由じゃないと自分でもわかっている。
もうすでに緊張で心臓がやばいことになっているが、必死にそれを押さえて、レッドがくるのを待っていた――――――――――――
「おじいちゃん。連れてきたぞ」
「よくきたな。レッド、グリーン」
博士のお孫さんのグリーンと、何もかもあの時のままのレッドが研究所にやってきた。
「博士。グリーンさん。厚かましいのですが、席をはずしてもらえません?」
「わかっとる」
「…ああ」
グリーンと博士が外に出ていくのを見届けると、私はレッドに話し掛けた。
「…レッド」
「久し振りだなぁ…あの時…目の前で倒れられて…ほんとに困ったよ」
あははって笑った彼は急に真面目な顔になって言ってきた。
「ねぇ…」
「ん?」
「名前、教えて?」
「なんで…?」
「なんでって言われても…」
「そ、そうだよね。
私の名前は……………」
私は自分の名前を告げた。
「いい名前!
ね!連絡先教えて?」
「え…なんで?」
「ん〜俺が…」
「俺が?」
「…のこと、好きだからかな?」
「え………」
あの時から何度願ったかわからない夢。
まさかこんなに簡単に叶うなんて…
「…いいよ」
「ありがと!」
「そのかわり、お願いがあるんだけど…」
「ん?」
いつまでも一緒にいてね。
もうあの時みたいに離れたりはしないよ?―――――
fin.
(2010/6/13移動)